もはやオオカミ少年化している「円安メリット」
中長期的な成長につなげられるのであれば、デジタル分野を含めて貿易・サービスの短期的な赤字(とそれによる円安圧力)は問題ない――という楽観的な指摘である。比較優位の考え方からは理にかなった指摘なのだが、現状では妄想の域を出ない「我が国の潜在的な成長分野」に対して過度な期待をかけている可能性はないだろうか。 少なくとも現状では楽観的な視点で「Jカーブ効果」を待っている間に家計が疲弊している。その結果、政治がポピュリズム化し、所得減税などのバラマキ政策に突き進んでいる。
産業政策の議論は置き去りになっており、気がついたら成長産業をサポートする財政的余力がなかった、という展開に向かっているように思われる。 このように考えると、最近の政治や財政の問題の根本は、円安が経済に与える影響を過大評価したことにある、と言えそうである。
末廣 徹 :大和証券 チーフエコノミスト