もはやオオカミ少年化している「円安メリット」
■頼みの綱の「長期の効果」も沈黙の兆し この背景について、金融危機後の円高局面で企業の海外移転が進んだことを指摘する見方が多い。 企業の海外現地生産・現地販売が進んだことで、円安になっても輸出(および国内生産)が伸びなくなってしまった(したがって円高は悪である)という指摘である。 この観点からすると、「円安⇒輸出増」という「短期のJカーブ効果」は期待できなくても、「円安⇒企業の国内回帰⇒さらなる円安⇒輸出増」という「長期のJカーブ効果」に対する期待は残っているようである。
確かに、世界の輸出数量指数に対する日本の輸出数量指数の比率と円名目実効為替の動きを2年間(24カ月)ずらして比較すると、アベノミクス以降の円安局面後、日本の輸出数量指数は相対的に少しだけ回復した局面があった。 しかし、今回の円安局面では回復の兆しが見えない。 「円安のメリットが出てくる」という主張は、もはやオオカミ少年化しつつある。 「円安⇒企業の国内回帰⇒さらなる円安⇒輸出増」という「長期のJカーブ効果」が発生するためには、日本企業の国内回帰が進むことが重要だが、この兆候はまだ得られていない。
日本企業の「海外設備投資比率」は2023年度の実績値が19.5%となり、2022年度の18.4%から上昇した。 「海外設備投資比率」はドル円相場に対して約3年遅れで推移してきたことから、2023年度の実績値はまだ途中経過に過ぎないが、「長期のJカーブ効果」が期待できる動きにはなっていない。 ■デジタル赤字を生かす「潜在的な成長分野」はあるのか 8月に公表された「令和6年度 年次経済財政報告」(経済財政白書)では、以下のように整理された。
デジタル分野等の赤字は、比較優位に基づく国際分業の考え方に基づけば、必ずしも問題というわけではなく、例えば、クラウドサービス利用が拡大していることは、質の高い海外のサービスを活用して、企業のDXが進んでいることの裏返しとも言える。 デジタル赤字を縮小すること自体が目的ではなく、コンテンツ産業など我が国の潜在的な成長分野において、稼ぐ力を強化する取組を進めることにより、結果として、関連サービス分野が成長していくということが重要であろう。