内野聖陽インタビュー 出会ってから撮影が始まる前まで、ひたすら監督と話し合った『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』
後輩俳優と共演するときに意識していること
――だからあれだけの濃いキャラクター達が映画を彩っていたんですね。思えば内野さんはベテランでいらっしゃいますし、年下の監督&共演者とのお仕事も増えています。後輩となる方々とお仕事をご一緒される時にやっていることや、意識されていることはありますか。 やれることはやっています。でも、何だろうね。基本的には役者という領分を大事にしています。役者はただの表現者、プレイヤーですから、その部分からはみ出したくないと思っています。他人の領分を超えてまで何かものを言うのは、自分的にはあまり良からぬものと思っています。今回は上田監督の方から「一緒にクランクイン前から、ガッツリお話させて下さい。リハーサルもしたいです」と提案を頂いたので「わかりました。やりましょう」という流れになりました。僕は基本的には演技以外のことで口を出したくないんです。ただのプレイヤーとして、色々と演じることでアイディアを出していきたいと思っています。 映画や舞台など感覚的な部分も多い世界なので、感性の世界を理詰めでトークしていくのは、あまり良くないと思っているのでそこは注意しています。「台本の中だけで完成度を求めてはいけない」と自戒したりもします。“ここはゆるく構えて、現場でそれぞれの役者さん達とのセッションの中で答えを見つけることが出来るんじゃないか”という感じで、演技の余白みたいなものをつけておくことは大事だと思っています。机上の議論で左脳優先で進めていくと、あまり良くないというのは、よくあります。 ――私の中で内野さんは、癖のある役を隅から隅まで演じられる役者というイメージがあります。それは感性ではおさまらないと思うんです。役を演じる為にどのような準備をされているのですか。 役を演じる為に色々なことを考えてはいると思いますけど‥‥。今回に限っていうと【熊沢】は、一言で言っちゃうと【怒りを忘れた公務員】なんです(笑)。上田監督とのセッションの中で監督は、「【熊沢】というキャラクターは【怒りを忘れた公務員】です」と言われたんです。それで「怒りを忘れたとはどんな感じ?」と聞いたら「日常の中で怒ってはいけない局面が家庭でも仕事先でも多過ぎて、そうなると怒りというものが自分の生活の中では邪魔な存在みたいなものになっていくんです」と答えられたので、それを演技の中でどう表現すればいいのかを想像していくんですよ。 ――キーワードを見つけて、それから色々と考えていかれるんですね。 そういうところもあるのかもしれません。つまりは、際限がないんです。“これを考えたけど、それならこれはどうなるの?”というふうに、僕の演技には方法論というか、決まったマニュアルがないんです。決まった作り方、マニュアルがあれば楽かもしれませんが、僕の場合、演じるキャラクターごとに自然に芋づる的に色々なところに手を伸ばして役を膨らませていく感じです。だから凄く時間がかかるんです。結果的に書斎に居る時間が長くなる。だから台本を読む時間も凄く長いです。1ページに5~6時間かけることもあります(笑)。そのパーツだけを見ていると見えなくなるので、わからないまま過ごして、先に全体を見ることもあります。ウロウロしながらブツブツしながら、例えるなら醸造中のお酒の泡がポコポコと出て来るみたいに、徐々に徐々に役を発酵していくような感じです。だから【役作り】という言葉は、個人的にはあまり好きではないんです。そんな人工的に作るものではなくって、役を寝かせて発酵させるみたいな感じだと思っています。