「日本の民主主義が笑いものになる」。都知事選でSNSを席巻した掲示板ポスター問題。なぜこんな事態になったのか、改めて振りかえる
7月7日に投開票された東京都知事選は、6月20日の告示直後からSNSの話題をさらった。その内容は、国政を背景にした与野党の代理戦争でも、現職と新人の政策論争でもなかった。 【写真】「選挙を愚弄している」 同一のポスターで埋め尽くされた掲示板
爆発的に拡散したのは、普段注目を浴びることが少ないポスター掲示板の画像。他の候補のポスターを取り囲むように、凹型に同じデザインのポスターが並んでいた。 ポスターの内容は風俗店の紹介、有料SNSへの誘導、亡くなった俳優の肖像など。選挙に無関係と思われるものが多かった。掲示板が選挙以外の目的に使われている―。さらに、裸同然の女性のポスターが張られていたことも判明した。都選挙管理委員会には苦情が殺到した。 なぜこんな事態が起きたのか、表現の自由、選挙、政治参加―。どれも市民の重要な権利に関わる問題だ。きちんと振り返っておきたい。(共同通信=東京都知事選取材チーム) ▽「孫の描いた絵」が掲示板に JR蒲田駅近くの掲示板に大量に張られたポスターには、女の子や花の絵と共にQRコードが掲載されていた。ここから連絡の取れたアルバイトの男性(69)が投開票日直前に取材に応じた。自身は候補者ではないとし、「注目が集まるよう、孫の絵を使わせてもらった」と掲示を認めた。「ユーチューブの登録者数を増やす方法を探していた。こんなアイデアもあるんだと驚いた。違法ではないし、次も機会があれば張りたい」と話す。悪びれる様子はなかった。
中野区役所前の掲示板も「ジャック」されていた。さまざまな人物の画像とともに、デザインの同じピンク色のポスターが24枚、ずらりと張られている。QRコードも記載され、読み込むと有料SNSの画面に誘導される。画像の人物は女性とみられ、ほとんどは選挙と無関係のようだ。 有権者はどう感じたのだろうか。通りかかった50代の男性会社員は「広告なのか、候補者ポスターなのか分からない」と困惑した様子。30代の女性会社員も「目的が選挙からかけ離れている」と非難した。 事の発端は、ネットで「ポスター掲示場をジャックせよ。」と呼びかけられた企画だった。政治団体「NHKから国民を守る党」によるものだ。団体は関係する立候補者のスペースに自由にポスターを張れるとした。掲示板1ケ所あたり24人分。条件は団体に一定額を寄付をすることだった。 告示直後から、実際に都内各地の掲示板にポスターが張られた。内容は女性キックボクサーやホストを名乗るもののほか、風俗店を紹介するものもあった。警視庁は風俗店のポスターについて、風営法違反容疑でNHK党の立花孝志党首に警告を出した。