【漫画家に聞く】“みんなの当たり前”ができない……飛べなかった少年が大空へ羽ばたくSNS漫画『夕飛』が熱い
ファンタジーとして描かれるからこそ、素直に胸に響く普遍的なメッセージがある。8月中旬、Xに投稿されたオリジナル漫画『夕飛』は、ひとつの出会いがきっかけとなり、コンプレックスを抱える主人公が成長していく姿が胸を打つ、熱い物語だ。 “みんなの当たり前”ができない……出会いと勇気がコンプレックスを消し去る漫画『夕飛』 翼を持つ人が当たり前に存在する世界。そんななか、高所恐怖症の夕飛は、背中に立派な翼を持ちながら、空を飛ぶことができないでいた。周囲からは「とべないくん」というあだ名をつけられ、バカにされる日々。そんな夕飛の前に、翼がないのにパラグライダーで空を自由に飛び回る青年・輝が現れてーー。 本作を手掛けたのは、小学2年生の時に「漫画家」という職業があることを知り、同時に父がもともと漫画家を目指していたことを聞かされて、「自分もやりたい!」と思うようになったと話す雪ノ原飛鳥さん(@yuki_m_110)。本作に込めた思いなど、話を聞いた。(望月悠木) ■みんなの当たり前ができない主人公 ――今回『夕飛』を手がけた時のことを教えてください。 雪ノ原:当時私が行き詰まっていた時、どうにかそこから吹っ切れたくて評価とか上手さなどに囚われずに「好きに描こう!」と思い描き始めた作品です。 ――なぜ“翼を持つことが当たり前の世界”を舞台に選んだのですか? 雪ノ原:まず「翼があったらいいのに」という私の願望を形にしました。「この徒歩15分は飛べば5分で着くかも?」「飛んだらどういう景色が見えるんだろう」など妄想ばかりしていたので(笑)。そのため、“空を飛ぶ”を題材に考えており、「鳥なのに高所恐怖症って面白くない?」と姉からの面白い発言が飛んできて、そこから“翼があるのに高所恐怖症で飛べない少年”という“みんなの当たり前ができない主人公”像が生まれました。 ――お姉さんの発言をヒントに主人公が生まれたのですね。 雪ノ原:はい。また、先述した通り、「行き詰まっている所から抜け出したい!」という思いから制作を始めたため、自分自身を夕飛に投影している部分もあります。「当たり前ができない、怖い」「それでも諦めない姿の主人公」を描くことで、自分へのエールにしたかったのです。 ――「自然にキャラが誕生していった」という感じですか? 雪ノ原:そうかもしれません。メインの2人は例えるなら、「これから映画を作ろう!」「よし、まずは脚本を考えるぞ」「キャスティングは完成したら決めよう!」「あれもう既に横にいる!?」という感じで決まっていきました。ですので、「どうキャラをどう作っていこうか」というよりは、「このキャラはどういうことをやらなそうか?」ということを注意して固めていきました。 ■着地シーンに隠された狙い ――飛んでいる時のカットは爽快感や躍動感がありました。飛んでいるシーンを描くうえで意識したことは? 雪ノ原:本作を読んだ人に、空気や風を感じられるような絵を描くことを意識しました。生身で空を飛ぶ経験は非日常なことだと思います。その非日常を楽しんでもらえるよう、キャラの髪を思い切りなびかせたり、風を描いて風を見える化したりなどしました。 ――飛んでいる時のカットで言えば、ラストに夕飛が着地する姿は特にインパクトがありました。 雪ノ原:あえて「バサッ」という音を書かないことで、そのシーンの時間が止まって見えるようにしました。また、会場全体が一瞬静まり夕飛に注目している様子を着地シーンで見せたかったため、地面にカメラを置き、ドーム型の会場と夕飛を見上げる構図で描きました。 ――「会場全体が一瞬静まり夕飛に注目している様子を着地シーンで見せたかった」という狙いが見事にハマった構図でしたね。 雪ノ原:とはいえ、難しいこと言ってるかもしれませんが、本当はあまり深く考えずに描きました(笑)。着地シーンは見せ場だったので、「夕飛が1番カッコ良く見えるように描いてやろう!」というただ1つの気持ちで描きました。 ――最後に今後はどういった作品を手がけていきたいですか? 雪ノ原:現在新作を制作中です。私自身も触れたことのないジャンルに触れて執筆しているため、未熟な所もありますが、『夕飛』よりレベルアップしたより楽しめる作品を制作できていると思っています! 発表などはまだ先になるかと思いますが、楽しみに待っていただけると嬉しいです!
望月悠木