『光る君へ』ライバル藤原伊周との「弓争い」に渋々応じた道長、『大鏡』ではむしろ好戦的だった
■ 藤原道長との「競べ弓」でとにかく強気な伊周 実資のように言うことを聞かない弟の道長のことを疎ましく思いながら、道隆はどこか脅威に感じていたのかもしれない。嫡妻の高階貴子(たかしなの たかこ)との間に生まれた息子の伊周(これちか)をどんどん出世させていく。 正暦3(992)年には、伊周は19歳の若さで権大納言に抜擢され、早くも道長と肩を並べることになった。さらに翌々年には伊周は内大臣にまで出世。権大納言にとどまる道長を置き去りにしている。道長は8歳年下の甥に抜かれたことになる。 今回の放送では、道長と伊周が弓で争うシーンが放送された。『大鏡』によると、ある日、伊周が父・道隆の屋敷である南の院に大勢の客を招待して、弓の競射イベントを開催したのだという。 『大鏡』では、道長が会場に現れると「お誘いしていないのに変だ」と、伊周が不審に思ったと書かれている。ドラマのほうでは、道隆が「弓比べをみていけ」と道長を誘って連れて行き、「道長、相手をせよ」と、息子の伊周と対決するように促している。 道長は「今日はそのような気分ではございません」と返答するが、伊周から「怖気づかなくてもよろしいではないですか、叔父上」と挑発される。『大鏡』とは違い、ドラマの伊周はとにかく強気なのだ。 弓対決の結果については、『大鏡』では伊周がわずか2本差で道長に敗れてしまうが、ドラマでは、そもそも勝負などしたくない道長が、おざなりに弓を射って、わざと負けている。そんな違いはあれど、そこから延長戦の勝負が始まるのは同じである。 『大鏡』によると、道長の勝ち逃げは許さないとばかりに、道隆やギャラリーが「今二度延べさせ給え」(あと2回だけ延長させなさい)と言い、道長は不快に思いながらも、それに応じたという。
■ 道長と伊周との後継者争いを予感させるシーンに ドラマでは、伊周がさっさと立ち去ろうとする道長に、「まだ矢は残っておりますぞ。そうだ叔父上、この先は願い事を言うてから矢を射るのはいかがでございますか」と提案。道長は気乗りしなかったが、兄の道隆が「おもしろい」というので、延長戦が行われることになった。 自信満々の伊周は「我が家から帝がでる」といって、先に弓を射るが外れてしまう。次に、道長の番だが、伊周から「叔父上も願い事を言うてからどうぞ」と言われたので、道長は伊周と同じ願いを口にして、矢を放つと見事に成功。場は騒然となる。 伊周も内心は焦ったことだろう。今度は「我、関白となる」というが、さらに弓はあさってのほうへ。次に道長がまだ同じセリフを口にして、矢を射ようとすると、道隆から「止めよ!」とストップがかかっている。すっかりしらけてしまったらしい。 一方『大鏡』のほうでは、延長戦になると、道長の方が何の前触れもなくいきなりこう言い出した。 「道長が家より帝、后立ち給ふべきものならば、この矢当たれ」(自分の家から天皇や皇后がお立ちになるべきなら、この矢当たれ! ) 道長が見事に的中させる中、伊周は外してしまい、さらに2回目も道長がこう叫んだ。 「摂政・関白すべきものならば、この矢当たれ」(自分が摂政、関白になるべきなら、この矢当たれ! ) やはり見事に的中させて、伊周が外すという流れとなっている。すっかり機嫌を損ねた道隆は「何か射る。な射そ、な射そ」(もう射るな、射るな)と言って、伊周にそれ以上、矢を射させることはなかった。 『大鏡』の道長の方がドラマよりも好戦的なのは、キャラクターの描き方の違いだろう。ドラマでは、その後に道長が妾妻の源明子に「8歳も年下の甥にバカなことをした……」と反省しており、大人の余裕を見せている。 道隆の死後は、道長と伊周の間で後継者争いが繰り広げられることになるが、そのことを予感させるシーンとなった。 ちなみに『大鏡』では、道隆の死後に2人がすごろくで争う様子も出てくる。そんなシーンも再現されるのだろうか。道長が政敵である伊周を倒すことによって、どんな心境の変化が訪れるのかも気になるところだ。