【中村勘九郎さんインタビュー】観てくれた人を狂わせるような芝居をしたい
東銀座の歌舞伎座はもちろん、浅草をはじめ全国各地で展開する平成中村座。渋谷・コクーン歌舞伎に赤坂大歌舞伎、そして今度はなんと新宿は歌舞伎町に中村屋の歌舞伎がやってくる。 歌舞伎関連写真をもっと見る
「歌舞伎町といえば欲望野望の渦巻く街。歌舞伎がもともともっている猥雑さと、根本では近いと思うんです。江戸三座が吉原とともに移転させられた先は江戸の中心から離れた場所で、それは風紀が乱れるからだったんですよ」と語るのは中村勘九郎さんだ。 「歌舞伎って現代のコンプライアンス的にどうかといわれれば、そりゃあもう、ですよ。でも表現としては誇張されていても、現代の我々と何も変わらない。愛や欲望、怒り、喜びに悲しみ、人間のもつ感情の素がつまっているのが歌舞伎なんです」 演目は荒事テイストがふんだんに盛り込まれた華やかな『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』と、七夕を織り込んだ洒脱な『流星(りゅうせい)』の舞踊二題、そして世話物『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』。落語の「貧乏神」を題材とした新作だ。 「ちなみに僕が出会ってみたい神さまは座敷童です。やはり幸運に恵まれたいですからね。でもこんなこと言っている時点でたぶん会えないんでしょうね(笑)」 今年は十八世中村勘三郎十三回忌追善の年。全国の劇場や縁のある芝居小屋をめぐるため、中村屋一門にとって忙しい春になる。 「子供のころ父と行った福岡県の嘉穂劇場は衝撃でしたね。五右衛門風呂だったんです。父が“こうやって板を沈めながら入るんだよ”と教えてくれた思い出深い小屋です。小屋によってはスッポン(花道のセリ)を人力で上げ下げするんです。機械では味わえない、なんともいえないあやしさね。役者にとっては堪らない空間なんです」 お客様と目が合ってしまいそうなほど客席と至近距離の小屋も。 「大きな劇場とは違う気持ちに…それはなります。そして“その気持ちに乗ってどんどんやれ!”ってうちの父ならいいそうでしょ?でも逆でした。父は古典を愛していた人ですから“お客様が近ければ近いほど律しなければいけないよ。乗せられてしまいそうになるけれどそれは恐ろしいこと。どこに行っても歌舞伎座でやるときと同じようにやれ”と」 歌舞伎俳優といえば江戸時代から続くアイドルの元祖。勘九郎さん自身もアイドルが大好き。 「推しがいることのエネルギーってすごいですよ。心震わせるようなパワーがもらえる。僕の今年の観劇初めは森山未來さんたちのダンス『魔笛』(KAAT)でしたが、もうね、美しさと同時に理解できない狂気があった。それを観て、僕も今年一年頑張ろう! 観てくださったかたを狂わせるような芝居をしようって思いました」