訪問看護師は見た! ヤバい奥さまの「夫をその日までは生かして!翌日以降は結構です」という「勝手な言い分」とまさかの「財産分与」。そのワケは...
訪問医療に従事していると、いろいろな家族のあり方や問題を垣間みる。そのため、もしかしたら話には出てきていない息子さんのお嫁さん、またはお孫さんかもしれない...そんなふうに思いながら、美絵さんは訪問看護師としての仕事に集中することにした。 何度か訪問していくうちに、91歳のHさんはどんどん衰弱していった。人は、口から食事や水分を取れなくなると、急激に衰弱する。そしてゆっくりと、自然に、命の炎を消す準備に入る。 往診医から家族へ厳しい話をしなければいけなくなくなったのは、その頃だった。 Hさんの寝室の隣の広い居間で、往診医と妻が向かい合い、今後についての話が始まった。残念ながら、これ以上の回復は見込めない、年齢から考えても、これからはお看取りに向かっていくことになると。 それは、自然な流れであり、これ以上の積極的な治療は回復・改善が見込まれないうえに、ご本人の苦痛となり得ることも丁寧に説明した。 「こういったお話をご家族へさせていただくと、ほぼ全てのご家族が『自然な流れで』『苦痛のない時間を』『なるべく楽にさせて欲しい』とおっしゃいます。 しかし、Hさんの奥さまは違いました...。 『11月10日までは、何がなんでも生かして欲しいの。翌日以降はもう結構ですので』と落ち着いた口調で懇願し始めたんです...」 妻から驚きの「懇願」の理由を聞かされ、困惑した訪問医と看護師の美絵さん。その理由については後編にてご説明していく。 取材/文 山村真子 PHOTO:Getty Images