42棟全壊で死者ゼロ、10年前の「白馬の奇跡」語り継ぐ…「支え合いマップ」生かし高齢者ら救助
最大震度6弱を観測した2014年11月の長野県北部地震(神城(かみしろ)断層地震)から22日で10年になった。震源地に近い白馬村では住宅42棟が全壊したが、近隣住民による迅速な救助によって死者を出さず、「白馬の奇跡」と語り継がれている。(金沢ひなた)
「コミュニティーの強さが命を守るために役立った」。村で最も被害の大きかった堀之内地区に住む津滝晃憲さん(50)は振り返る。地震から10年がたち、一軒家が続々と新築され、当時を知らない若者の転入も増えている。津滝さんはそうした人たちに、住民同士の関係づくりの大切さを話してきた。「地震の教訓を伝えていきたい」という。
自宅2階でテレビを見ていた津滝さんは大きな縦揺れに驚いて外に出ると、多くの住宅が傾いたり、倒壊したりしていた。近隣住民と合流し、それぞれ自宅からジャッキなどを持ち寄って閉じ込められた高齢者らの救出にあたった。同地区では26人が倒壊した建物に閉じ込められたが、近隣住民や消防団の活躍で夜中のうちに全員が救助された。
地区には支援が必要な高齢者らを地図に示した「災害時住民支え合いマップ」があった。津滝さんは「住民一人一人が自宅のどの部屋にいるのかも大まかに把握していた」と話す。
地域住民のつながりは避難所生活でも役立った。村が開設した避難所には最大171人が過ごしたが、住民同士の情報交換が活発で、公的な情報が伝わりやすかったという。「いい意味でプライバシーがなかった。避難所にさえ行けば、どうすればよいかが分かった」と津滝さんは語る。
信州大防災教育研究センターの広内大助教授は「公助が間に合わない災害の初期には、自分で自分の命をつなぐ自助、地域の協力による共助で何ができるかを考えることが大切だ」と指摘している。
◆長野県北部地震(神城断層地震)=2014年11月22日午後10時8分、県北部を震源として発生。小谷村などで震度6弱、白馬村などで震度5強を観測した。県のまとめによると、重傷者は8人、軽傷者は38人、家屋被害は全壊81棟。