「実質的に解雇の代替手段になっている」 無理やり“退職届”を書かせる「強引な退職勧奨」の問題を弁護士が訴え
退職届に署名した後も、条件についての交渉はできず
9日の面談が終了した後、A氏は妻と相談。妻は経済的不安などから精神的な不調に陥り、退職に反対した。妻の様子を受け、A氏は「せめて次の転職先が決まるまでの生活保障を得られるよう、最大限交渉をしよう」と決意した。 14日に行われた面談では、総務部長は「条件交渉を開始する前に、とにかく退職届を提出するように」と強く要求した。A氏は9日に渡された退職届を持参しており、署名押印はしていなかったが、総務部長の要求を受けて、その場で署名。ただし印鑑は持参していなかったので押印はせず、またこの時点では退職日の日付も記載しなかった。 A氏が署名した直後、総務部長は「1月15日が最終出社日」「2月14日が退職日」と、一方的に告げる。また、自己都合退職であるために解雇予告手当などは発生しないと主張した。さらに、X社の就業規則により権利が発生していた、未消化の結婚休暇の使用を求めたA氏に対して、「時季が過ぎたから使用は不可能になっている」と虚偽の説明を行う。 なおも条件交渉を続けようとしたA氏に、総務部長は「クビにされたような人間、うちなら採用しません」と自己都合退職ではなく解雇になることのデメリットを強調したり、「だからそれ(退職届)書いてくださいつってんだよ」と脅すような言い方をしながら、退職日の日付を記載するようA氏に強く要求する。 要求に屈したA氏は日付を記載。その後もA氏は退職条件について考慮を求めたが、交渉は行われなかった。
一審では請求が退けられる
A氏は退職の取り消し(地位確認)を請求する訴訟を提起したが、2024年3月28日、一審を担当した東京地裁は「退職は有効」としてA氏の請求を退けた。 2020年1月14日の面談はA氏によって録音されており、訴訟でも証拠として提出された。しかし地裁は、最終的にA氏が退職届に署名したこと、またA氏が同年1月16日以降出社しなかったことなどを理由に「退職について合意があった」と判断。 鈴木弁護士は「労働者による退職の意思表示については、慎重に判断することが判例でも定められている」としながら、地裁の判断を批判した。 「A氏が16日以降出社しなかったことも、総務部長から一方的に『もう出社するな』と命じられたからであり、本人の意思ではない。 地裁は、録音された退職勧奨の内容について評価や事実認定も行わなかった。はっきり言うと、軽く扱っている」(鈴木弁護士) 控訴審の第1回期日は9月5日に開かれる予定。