職場をクビ→43歳でシェフに転身した女性が「人気者」になっていった経緯、ブランドはこうして作られた
■レシピ本と動画の「難しいところ」 ところが、料理動画のレシピ本の執筆には共通の難しさがありました。毎日料理をしている私にとって、メインの食材以外の「副食材」の分量は、「自然な量(いわゆる目分量)」だったのです。また、例えば鶏肉の「柔らかさ」によって砂糖の量を調整するなど、料理をするたびに食材を「感じる」ことを大事にしていました。 一方で、料理動画やレシピ本では、「自然な量」や「感覚」を数値化しなければなりません。もちろん、より科学的に料理をできるようになったので、料理好きな人たちにも伝わりやすくなったのは非常にいい経験となりました。
実際、レシピ本の売れ行きも好調で、多くのファンが買ってくれました。しかし、私はこの本には満足はできませんでした。出版社はビジネスなので採算を気にしないといけないことは理解できるのですが、写真の質も含めて私の料理とその過程をもっと楽しく伝えたいという思いが残ったのです。 そこで、私はレシピ本を自費出版することに決め、香港でトップのフードスタイリストに写真もお願いすることにしました。印刷代が多額になるので、クラウドファンディングをすることにしましたが、こうしたプラットフォームは主にハイテク製品のためのもので、多くの人に「ほかの資金調達手段や出版方法を考えたほうがいいんじゃない?」と忠告を受けました。
確かに自費出版は手間がかかりますが、クラウドファンディングのよさは私自身が自分のレシピ本を「好きに作れる」というよさがありました。 幸い、クラウドファンディングは好調のまま期限を迎え、ふたを開けてみれば中国と英語のレシピ本を出すプロジェクトはのべ1768人の支援者を獲得し、46万7880香港ドル(約900万円)の資金を調達するという、キックスターター史上、最も成功したレシピ本のプロジェクトの1つとなったのです。
■本のおかげでオフラインでも有名に さらに幸運だったのは、この料理本が最も重要な国際料理本コンテストで世界最優秀女性シェフ本賞を受賞したことです。フェイスブックで投稿した料理動画が私をオンラインで有名にしてくれたのと同じように、この本は私をオフラインで有名にしてくれました。 オンライン、オフライン、ソーシャルメディア、そして伝統的なメディアの相乗効果で、私のブランド名は高まっていきました。多くのプロのマーケティング担当者は、私にはマーケティングを手伝ってくれるプロのチームがいると思っていたようです。