クルーズ船対応、責任はどこに? 新型コロナの集団感染
同教授は「乗員数十名程度の貨物船では、たとえばインフルエンザの感染が疑われる乗員がいた場合、船長は船管理会社と相談の上、投薬や陸の医療機関への転送などの対応を行ってきた。海運業界では、それで十分だと考えられてきたのではないか」との見方を示します。 その上で、「今回は、誰が責任を負うかということよりも、各関係者が連係して対処すべきケースだった。その意味ではベストと言えないかもしれないが、大きな問題も起きなかった」と話し、寄港国の日本政府や旗国の英国、船の運航会社の対応を一定程度評価します。 クルーズ会社の責任については、「(会社の)旅客運送約款の内容次第」と話します。船側の過失でない場合は賠償責任を負わないという事項が記されていた場合、「乗客が感染症を発症したり、感染が拡大したりしても船側の過失が認められない限り、免責となる可能性は高い」と話します。
ルールの整備、「早急に」
世界的にクルーズ船への人気は高まりつつあり、今回のような事例は今後も起きる可能性があります。船舶運航に詳しい神戸大学大学院・海事科学研究科の若林伸和教授は「感染症への対応に関する国際的なルールづくりを早急に検討する必要がある」と訴えます。 その際にはクルーズ船だけでなく鉄道や飛行機でも同様に対処ルールを整備すべきだとし、「海事や運航関係の組織よりも、WHO(世界保健機関)のような保健に関する国際組織が主導すべきだ」と話します。 若林教授はまた、「まわりを海で囲まれた日本では、こうした感染症や災害の発生に備えて、(海上での治療や救助などが行える)病院船の保有を検討すべきだ」とも主張します。
「批判されるいわれない」
乗員乗客を船内にとどめたことに対し、国内外のメディアや専門家からは「(政府をはじめとする)日本側の対応によって感染が拡大した」などの批判も出ました。 これに対し、船舶や海運の法律問題に詳しい山口伸人弁護士(東京山王法律事務所)は、「検疫法は、海外から新たな感染症の侵入を防ぐための法律です。他の国にもあります。だから、乗員乗客のなかから新型コロナウイルスの患者が見つかれば、上陸させないのは当然のことでしょう」と主張します。 「『船内に閉じ込めるのはけしからん』との批判もありましたが、政府としては『検疫法にのっとっており、批判されるいわれはない』というところでしょう」としています。 (取材・文:具志堅浩二)