「家康は本当に“タヌキじじい”だったのか」大河ドラマはどこまで本当? 歴史小説と時代考証を解説
「どこまでを描くか」は演出家の判断
NHKで以前、時代考証を担当していた大森洋平さんの著書『考証要集 秘伝! NHK時代考証資料』が自宅の本棚にありました。 番組によってゆるくもきつくもなりますが、いずれにせよそこからはみ出してはいけない。昭和三〇年代を描いたドラマがどんなに感動的であっても、その時代にない 「立ち上げる」なんて言葉や、スマートフォンが出てきたら芸術祭で物笑いのタネになるだけです。(21ページ) 実際に時代考証担当者は、いろいろなアドバイスをするのですが――。 考証会議ではあまりに陳腐でない限りストーリーそのものを改めるようなことはなく、またそこでの結論をどこまで取り入れるかは演出者の判断で、考証者は意見具申役に徹します。(21ページ) 「こうであるべきですよ」とは言うけれど、採用するかしないかはドラマの作り手が決めていく。ドラマの作り手には「どこまで許されるだろうか」「どこまで攻めてみようか」「どこまで遊んでみようか」とか、そういった判断が求められています。 ※時代考証に関わるおすすめ書籍5(神戸の本棚より) 『考証要集 秘伝! NHK時代考証資料』(大森洋平著、文春文庫) わかりやすさには定評がある、楽しいお読みもの。
それでも時代考証は面白い
僕の中では『どうする家康』はちょっとアウトかな、という感じでした。北条氏を描いたドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年)では第1回の放送で「首チョンパ」という言葉が出てきてびっくりしましたが、これはあえて狙ってやっていますよね。怒っている人もいましたが、僕は「許容範囲かな…」と思って見ていました。非常に面白いドラマでした。 今回の『光る君へ』も素晴らしいですね。そんなに熱心な大河ファンではありませんが、今回は期待しています。『どうする家康』を超えるいいドラマだったら面白いなあと思っています。時代考証は面白いですよ。 ※時代考証に関わるおすすめ書籍(神戸の本棚より) 『江戸時代語辞典』(潁原退蔵著、尾形仂編、角川学芸出版) 前期の上方語から後期の江戸語までを網羅した江戸語辞典の決定版。近世文学研究の泰斗故潁原退蔵博士が遺した語彙カードは10万枚超、専用の防空壕に収め、戦火を生き延びた。孫弟子にあたる尾形仂の退官記念として遺稿公刊が企画され、2008年に出版された。2万1000余の項目、4万2000の用例を収録。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。報道部長、ドキュメンタリーエグゼクティブプロデューサーなどを経て現職。近著に、ラジオ『SCRATCH差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』の制作過程を詳述した『ドキュメンタリーの現在 九州で足もとを掘る』(共著、石風社)がある。80分の最新ドキュメンタリー『リリアンの揺りかご』は3月30日午後、TBSドキュメンタリー映画祭・福岡会場で上映予定。