だから社員は潰れていく。「ダメな職場」で起きている1つのこと
● 会議ばかりしていて、物事が前に進まない こうなると実作業よりも、すり合わせの時間が長くなる傾向も顕著です。結果として起こるのは、多種多様の会議に同じメンバーが集まってしまう、会議だけはこなすが活動はさっぱり進まないという非常に生産性の低い状況です。この事態にすでに陥っている企業も多いのではないでしょうか? そんな状況で、新たに全社でDXを始めると言われても、それこそ、忙しすぎて対応できませんというのが現場の実体だと思います。理想的には、事業縦割りの力学をポートフォリオマネジメントで整理、進化させると同時に、種々の横軸活動も、企業の目指すべき北極星であるパーパスにしたがって整理、進化させていくべきです。 しかし、このような美しい流れのなかで仕事が進んでいく企業はあまりなく、実際のDX導入は、さまざまな横軸機能とその活動とのぶつかり合いのなかで、泥縄式にやっていくしかありません。 泥縄式でやっていくしかないのですが、それに消費される内部エネルギーの量は莫大です。その効率性に限界を感じた私は内部だけへのアピールではなく、外部へもアピールし、その評判をもって社内のDXへの熱量を上げることができないかと考えるようになりました。 当然、まだ全社としてのDXの実績はほとんどなかったので、西井社長と相談し、味の素のDXは当時あらたに設定したパーパスである「食と健康の課題解決企業」を実現するためのものであり、パーパス経営への転換と一体になったものでもあるという考え方を前面に出すことにしました。 要するに、味の素は社会のDXの波に乗るが、それが目的ではなく、もっと重要なパーパスの実現のためにDXをやるのだという認識を社内レベルのみならず、外部や日本の社会的な認識にしたかったのです。
● 変革の風は外から吹かせる そのときにタイミングよく、入会したばかりのCDO Club Japanから講演依頼がありましたので、すでに実績のあるアミノサイエンス事業本部のデジタル技術のネタを中心に、あくまでも、パーパス経営への転換を支える活動としてのDXであるという講演をしました。 これに対して、日本のビジネス界からは意外なほどのいい反響がありました。3年半前くらいのことですが、当時はまだ、日本企業でDXを本格的にスタートしている企業が少なかったことも大きかったのでしょう。 外部で評判になると、社内へのインパクトも加速度的に上がってくるから不思議です。その意味で、私が、2020年に、『CDO OF THE YEAR』を幸運にも受賞したことも、大きな社内へのインパクトがありました。 社外の人から「味の素さんはDXの先進企業ですよね」と言われるうちに、社員は少しずつ「自分たちはいい方向に進んでいるのでは」と感じるようになってきます。 このように、社内には最低限の説明しかしていないのにもかかわらず、DXへの関心が自然と高まっていきました。 その後も各種討論会やプレゼンなどに登壇し、味の素のDXを計画段階のものも含めて、どんどん外部発表していきました。そして、その内容は社内のIRに必ず取り上げてもらい、イントラネットを通じてグローバルな味の素グループへ発信し続けました。 そうなると、私以外にも自らの取り組みや成果を社内外に発表しようとする人たちがどんどん現れるようになります。内向き組織が前向き組織に変化してきている証拠であり、私にとっては非常に嬉しいことでした。 時間がないので、苦肉の策として、最初から外部にアピールした味の素のDX、そしてそれを指揮するCDOの戦略でしたが、日本のビジネス界の潮流に乗ることができ、幸運とも思えるくらい好調なスタートを切ることができました。
福士博司