「この機体も候補だったの!?」 空自の新練習機選定に“第三国”の影 陸自にも食い込む“ダークホース国”とは
T-7練習機の後継「トルコ製」も候補にあった
防衛省は2024年11月29日、航空自衛隊の次期初等練習機および地上教育器材として、兼松が提案していたテキストロン・アビエーション・ディフェンス社製のT-6「テキサンII」を選定したと発表しました。 【スバル、脱落】これが空自の後継練習機の“候補機”たちです(写真) 防衛省は兼松からT-6、SUBARUからスイス製のPC-7MKX(実機と地上教育器材)、第百商事からトルコ製のヒュルクス(実機と地上教育器材)、新東亜交易から地上教育器材がそれぞれ提案され、審査の結果、T-6を選定したとしています。 筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は、T-6とPC-7MKXが提案されていたことは聞き及んでいましたが、ヒュルクスの提案はまったく予想外で、防衛省の発表を見て正直な話、かなり驚きました。 ヒュルクスはトルコの航空機メーカー「トルコ航空宇宙産業」(TUSAS)が開発したターボプロップ練習機です。 エンジンはT-6と同じプラット・アンド・ホイットニー・カナダ製のPT6A-68を使用しており、飛行性能や軽攻撃機型が開発されている点もよく似ています。 防衛省はヒュルクスが、航空自衛隊の必須要求事項を満たすか否かが基準となる、第1段階の評価で脱落したと説明しています。ただ、これは航空機としてのヒュルクスが性能的に不十分であったのではなく、シミュレーターなどの地上教育器材を含めた「練習機システム」として評価した場合、航空自衛隊の必須要求を充足することができなかったことを意味するものでしょう。 これは筆者の推測ですが、第百商事とトルコ航空宇宙産業は「採用されたらラッキー」ぐらいの気持ちで、将来の布石としてヒュルクスを提案してきたのではないかと思います。 思えば、今や日本・イタリアとともに次期戦闘機の開発プログラム「GCAP」を進める英国も、同じようなプロセスを経て日本との関係値を深めてきました。
陸の車両にもトルコの影!?
航空自衛隊のF-4EJ改の後継機を選定する際、イギリスに本社を置くBAEシステムズはユーロファイター・タイフーンを提案してきました。 今ではBAEシステムズという企業の知名度は高くなっていますが、F-4EJ改の後継機を選定していた2000年代後半から2010年代前半、BAEシステムズという企業の知名度は、決して日本では高くありませんでした。 BAEシステムズはユーロファイター・タイフーンのセールスを通じて防衛省・自衛隊とのパイプを構築するとともに、ねばり強く日本国民へのアピールを行っていました。その活動があったからこそ、陸上自衛隊のAAV7水陸両用車の採用や、「GCAP」での協業などが実現したのではないかと思います。 だから、今回のヒュルクスの提案は、かつてユーロファイター・タイフーンを「切り込み隊長」にして、日本市場へ浸透していったBAEシステムズと同じ路線を狙っているのではないかと筆者には映ります。 トルコ航空宇宙産業がこの先、日本市場でどのような展開を考えているのかは未知数ですが、トルコの防衛産業が日本市場への参入を希望しているのは確かだといえます。陸上自衛隊は現在、運用している軽装甲機動車と75式ドーザを後継する装備の提案を行っていますが、ここにもトルコの影があります。 軽装甲機動車の後継装備にはトルコ企業のヌロルマキナが同社の軽装甲車「NMS 4×4」、75式ドーザの後継にはヌロルマキナの親会社であるヌロル・ホールディングスの傘下企業で、トルコの大手装甲車メーカーFNSSが水陸両用装甲戦闘ドーザー「AACE」を、それぞれ提案しています。