「ノ社問題」で注目 臨床試験の流れは?
治験と臨床研究 どちらがより厳格?
ただ、2つには決定的な違いがあります。まず治験は実施主体が製薬企業ですが、臨床研究は概ね医師が実施主体。また、治験は薬事法に基づく厚生労働省令で定めた厳格な倫理性・信頼性基準があるのに対し、臨床研究は厚生労働省が示した臨床研究倫理指針があるのみ。端的にいえば治験の方が厳格な法的管理のもとで実施されています。 費用は治験では製薬企業が全面的に支払いますが、臨床研究では明確には規定されていません。ただ、数千人規模の患者が参加する臨床研究のコストは最大で億単位になり、医学部の教授クラスでも単独で費用を賄うことは困難です。このため研究費用を製薬企業が寄付金という形で提供することは少なくありません。製薬企業は自社製品に有利な研究結果が出た場合、それを用いて「わが社の薬はこれだけ有効です」と医師に宣伝できるメリットがあるからです。
「資金提供」の問題
ただ、企業から資金提供を受けるのは、中立的であるべき研究者の立場と齟齬が生じます。これを「利益相反」と呼びます。この場合は予め資金提供元などを開示することが厚生労働省や文部科学省がガイドラインなどで定めています。こうした情報が開示されれば、研究成果を見る人はある程度その影響を割り引いて考えることができるからです。 今回のノバルティスの問題は、まさにこの医師主導の臨床研究に遂行に同社社員が深く関与し、同社所属の身分を隠して研究論文に名前を掲載、資金提供に関する情報開示も不十分でした。しかも、その研究の一部に明らかにノバルティス製品に有利になる意図的なデータ操作があったことが分かりました。 今回、厚生労働省は薬事法第66条に基づく誇大広告違反容疑でノバルティスを刑事告発しました。同社は操作された研究結果を宣伝し、販売を行っていたからです。もっともこれは前述のように臨床研究に法的な規制がないためとられた苦肉の策とも言われています。 ただ今回の一件で臨床研究に関する医師と製薬企業との関係が見直されることは確実と見られています。