大谷翔平「50-50」ボールを落札した“台湾企業”の胸算用 現地でも無名な「富裕層向け投資ファンド」の正体とは
もしかして鴻海? 落札者をめぐって大騒ぎ
台湾での野球人気、そして大谷人気ゆえに、最低入札額50万ドル(約7600万円)で9月27日から始まった「50-50」記念ボール争奪戦は、当初から大きな注目を集めた。 競売を主催した「ゴールディン」の代表が、「日本からの入札も積極的だったが、最終的に台湾企業に競り負けた」と発表すると、台湾メディアはまさに上を下への大騒ぎとなった。 当初「ゴールディン」は落札者について「野球と大谷翔平を愛する台湾の企業だ」とだけ言及し、企業名は明かさなかった。そして、ドジャースとヤンキースによって争われるワールドシリーズ終了後、落札者がゴールディンを訪問した際に明らかになると語ったのだが、この発言が10月25日のニュースで報道されるや、台湾ではたちまち「誰が記念ボールを購入したか」という憶測が飛び交った。 まず、新興の航空会社「スターラックス航空(星宇航空)」のCEOであり、ドジャースの広告主でもあるチャン・クオウェイ氏ではないかという説が飛び出したが、これはチャン氏本人が「私は50本打たれる方だ」と早々に否定した。 次いで、鴻海科技集団(フォックスコングループ)のカリスマCEOであるテリー・ゴウ氏、台湾野球協会理事長でもある中信金融グループのトップ、グー・チョンリャン氏の名前も挙がったが、最終的には前述のように、ワールドシリーズ終了を待たずしてUCキャピタルが名乗り出ることで騒動は一段落した。
世界中の野球ファンにとって「聖杯」
同社が発表した声明文は以下の通りだ。 〈UCキャピタルは、当社の本業である投資の世界だけでなく、企業の社会的責任も果たしています。(大谷翔平選手による)この歴史的な記録となった50本目のホームラン記念ボールは、世界中の野球ファンにとって「聖杯」です。そのため、我々はこの歴史的価値を持つボールを台湾に持ち帰り、歴史的瞬間を分かち合えることを非常に光栄に感じています。 当社のAIシステムは、世界中の価値あるコレクション対象を常に追い求め、美しいものを保有しています。今後も大谷翔平選手が世界の野球界に与えるインパクトをさらに高めていくと信じ、(記念球を落札した)この度の決定が意義ある事だと確信しています。 我々は台湾と日本の各機関・団体と協力し、ファンが間近に(記念ボールを)鑑賞できる公益展示を企画できる日を楽しみにしています。そしてそれが台湾野球の発展を促すだけではなく、台湾の存在を世界に広めることも目指しています〉 あえて全文を紹介したのは、記念ボールを落札した達成感と、「台湾の存在を世界に広める」という大上段から振りかぶったコメントに並々ならぬ意志が感じられたからだ。 台湾でこれだけの騒ぎになるのも「50-50ボール」の持つ重要性の表れではある。たったひとつのボールがもたらす社会への影響に、今後も注目していきたい。 広橋賢蔵(ひろはし・けんぞう) 台湾在住ライター。1965年生、1988年北京留学後、1989年に台湾に渡り「なーるほどザ台湾」「台北ナビ」編集担当を経て、現在は台湾観光案内ブログ「歩く台北」主宰。近著に『台湾の秘湯迷走旅』(双葉文庫)などがある。 デイリー新潮編集部
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