日本と同じ感覚で“韓国ライブ”に行ける未来へ イープラス、現地企業との提携で見えたチケット販売の課題
韓国でK-POPのライブを観るべく渡韓する人々は、チケット購入に四苦八苦した経験があるだろう。また日本でJ-POPライブを観たいという韓国のファンからは、外国人が買えるチケットが少ないという嘆きを聞く。さまざまな販路はあるものの、海外公演のチケット購入はハードルが高い。 【写真】『2024 Weverse Con Festival』大トリはSEVENTEEN! この秋、株式会社イープラスと、韓国のトラベル&レジャー、エンターテインメント企業であるインターパークトリプル(以下、インターパーク)との、日本と韓国における業務提携契約の締結が発表された。今回の提携により、日韓の各種イベントや公演へのアプローチが広がり、インバウンドの発展も期待される。そこで提携の経緯やユーザーにとってのメリット、今後の可能性などについて、株式会社イープラス執行役員の横山大輔氏へインタビュー。エンタメ愛あふれるさまざまな構想や試行錯誤の現状をストレートに語ってもらった。(筧真帆) ■“何がハードルになるのか” 課題を洗い出すためのトライアル期間 ーー横山さんのこれまでのご経歴、現在の業務内容について教えてください。 横山:私は2004年にイープラスへ入社したのですが、前職は海外の舞台作品を日本に招聘する会社で、主に宣伝と営業を担当していました。イープラスに入ってから20年ほどになりますが、営業からコンサートの企画制作、マーケティング、事業開発、システム開発プロジェクト等々を経験してきて、現在は執行役員という形で3部門の統括を兼務しており、主に会社の事業計画や企業戦略を担当する経営企画部、全国各地のイベント主催者やライブハウスなどにセルフ・サーブのチケット販売システムを提供しているサービスを扱う営業3部、そして立ち上げからかかわった映像配信サービスを扱う映像コンテンツ事業部を担当しています。チケット販売会社は基本的に業務工程や役割における分業組織なので、何か新しい事業やサービスが始まるときに「どこの部門がやるんですか? 誰がやるんですか?」となることが多いのですが、「とりあえず、まずは横山のところで」ということをずっと続けてきているので、常に新しい部門や事業、サービスに携わってきたという経験があります。イープラスという会社は、今の当たり前を常に疑ってライブエンターテインメント市場を変革/発展させ続ける企業であり続けたいというミッションがあり、新しいことに挑むことが好きなので、そんな点が魅力で働いていますし、私自身も新しいことをやるのが好きなので、非常にマッチしていますね。 ーーそんな新しい取り組みのひとつが、韓国のインターパークとの業務提携契約ですが、提携に至るまでの経緯や時期を教えてください。 横山:今、韓国では政府や行政機関を中心に、「韓国のインバウンドを数年以内に5000万人(発表によっては目標値に差異あり)にするぞ」という目標を掲げています。このインバウンドを増やすためにはエンターテインメントのコンテンツが欠かせないだろうということで、インターパークが日本のエンタメ業界にかかわる方々に、この春ごろからずっとアプローチをされていたんです。イープラスへも今年3月にお越しいただきました。そのとき弊社の代表から、現代の日本のライブエンターテインメント市場の課題や、イープラスの経営課題などをストレートにお話ししたところ、先方も課題に似ているところがあり、弊社との相性の良さを感じていただいたようでした。具体的に進めていくことになりましたが、法的なことや個人情報保護の取り扱い、税務や会計処理に加え、チケットの売り方や慣習も違うので、そうした問題点を夏場に詰め、9月に提携を発表。現在、トライアルでのチケット相互販売という形でスタートしたという状況です。 ーー出会ってから半年ほどで提携し、販売を始めたというのはかなりスピーディーですね。トライアルとのことですが、現状はどのような販売を行っているのでしょうか。 横山:将来的な構想を先にお話しいたしますね。お互い多くのチケットを取り扱っているため、韓国の方からは、日本の音楽以外のチケットにもアクセスできるようにしたく、逆に日本から渡韓するお客様には、あらゆるコンサート、ミュージカルや展覧会などにもっと気軽に行けるようにできたらいいなと考えています。ただ本来は在庫管理など日韓でシステムを繋ぐことが理想なのですが、繋ぐためにはかなり大きな投資が必要となります。そもそもニーズがあるのかなど、お互いに“何がハードルになるのか”をトライアルしないといけない。そこで9月ごろからまずは毎月10公演ほどを、ジャンル問わずお互いにアナログな形で提供し合っていっている状態です。たとえば9月には韓国・ソウルのCOEX一帯で行われた『江南フェスティバル』、10月は仁川のインスパイア・アリーナで開催された『2024 K-Link Festival』、そのほかミュージカル『キンキーブーツ』の韓国版などのチケットをインターパークから提供いただいて、イープラスで日本のお客様に販売していました。インターパークで売っていただいている日本開催のチケットで直近のものだと、年始の『rockin'on sonic』、2月のGREEN DAY来日公演などがありますね。ただ10公演だけにせよ、お互いに売り方やいろんなものが違うので、課題を一つひとつ潰しながら、最終的にうまくシステム連携できるように調整している段階です。 ■「日本とは真逆の文化がある」考え方の違いによるチケット販売の難しさ ーーまさに現在進行形でトライアンドエラー中だと思いますが、特にどういった点が難しいですか。 横山:日本公演のチケットを売ることからお話しすると、日本は抽選販売から始まり先行先着というのが主な流れですが、諸外国同様に韓国でも抽選販売を行うことはほとんどありません。これは公平性や利便性の考え方の違いが影響しています。韓国を含めて、ほとんどの国では早い者勝ち、遅れた方が悪いという考え方がチケット販売や入場におけるセオリーです。日本では「よーいどん」はするけれども、同じ期間のなかで平等に申込みできる機会が与えられます。利便性についても、同じような考え方が前提にあり、日本とは真逆の文化があるんですね。そのためインターパークでは、基本は先着からの販売になります。入場についても、日本ではあらかじめコンビニで発券したり、電子チケットを持って入場したりしますが、韓国では基本的に当日会場で紙チケットを受け取ります。人気公演では最近モバイル入場も増えてきましたが、おそらく9割は現地引き換えです。日本の興行主からすると、韓国のお客様用に当日特別窓口を作ってまでチケット発券の対応は難しいということになる。逆に、韓国公演を日本のお客様がイープラスで買ったとき、「ネームリストをもらえれば対応する」と言われますが、本当に会場に伝わっているのかとか、日本のお客様が現地でちゃんと入れるのか等の不安もあるんですよね。あと日本特有といえば、“ドリンク代別”というシステムが当初、理解いただくのが難しかったです。概要に書いてはあるけれど、韓国のお客様が会場へ来たらいきなり“別途600円徴収”と言われて驚くという。事前にどう伝えれば韓国のお客様にも理解できるかということを毎日やり取りしていて、極力お問い合わせやトラブルに発展しないように、トライアルのなかで課題を潰していっている状況です。 ーーこうして伺うとチケット販売だけでも細かい慣習の違いが相当あるのですね。今回の提携で、日本と韓国それぞれのチケット販売の変化や、ユーザーにとっての具体的メリットが気になります。 横山:何より両社で一致したのが、韓国から日本には大体年間700万人ぐらい来日していて、日本から韓国は250~300万人が渡航しているにもかかわらず、全然エンタメ体験をしていないよね、という意見でした。日本から渡韓される方は、K-POPライブ目的の方も多いと思いますが、そのほかにもこんなに色々エンタメがあるんだよと知っていただくことが大事だし、それができるのが我々のようにいろんな商品を取り扱っているチケット会社です。なので、その情報が集まっているところをいちばんの利便性、ユーザーメリットとして提供することを目指しています。おそらく韓国へよく行かれる日本のお客様は、すでにインターパークのグローバル(海外購入者向け)サイトを使ってチケットを買っていると思いますが、さらにライトなニーズにも応えられるようにしたいなと。決済や個人情報などを海外サイトで扱われるのは不安だというお客様も多くて、その分イープラスのサイトから買うことで安心していただけるのもメリットですね。