「成田空港」ど真ん中にあるタブー「木の根ペンション」とは? 日本の“行ってはいけない”異界地図(レビュー)
「異界」と聞いて、心霊スポットやなんかを思い浮かべる人もいそうだけれど、タブー地帯という副題が示すとおり、本書における異界は社会学的な視点から選出。ある場所がどうして特異性を持つに至ったか、その成立の経緯や特徴に着目して分類し、章立てされている。 松代大本営、飛田新地、軍艦島、釜ヶ崎……各章で取り上げられるのは、それぞれで一冊の本にもなりそうな歴史や物語を秘めた場所ばかり。研究者や専門ライターが取材と執筆を担当していて読み応え十分だ。 印象深かったのは成田国際空港の一文。まず紹介されるのは、空港敷地のど真ん中にポツンと残る私有地に立つ「木の根ペンション」だ。まさに異界にしてオモシロ物件だが、もとは空港建設に反対する三里塚闘争で拠点となった場所だった。 ひもとかれる歴史をふむふむと読んでいくと、書き手自身が新左翼の活動家だったと明かされる。臨場感があると思ったら当事者でしたか。〈戦旗派の独善を感じて筆者は離脱した〉なんて、さらりと書かれていて、じつに味わい深かった。
冒頭と巻末に分割して収録された社会学者、宮台真司さんの特別インタビューは、まさに「異界讃歌」。異界は、ルールに縛られた日常生活で失われていく活力を呼び戻してくれる存在なのに、日本社会から消えつつある、と警鐘を鳴らす。〈今なぜ異界の回復が必要か。生きることが過剰につまらないからです〉。 廃墟を見ると写真を撮りたくなるとか、非日常的な空間に少しだけ身を置きたくなるとか、評者の「異界趣味」は、お散歩感覚でしかない。 それでも「法より掟」「悪所・裏共同体・人でない者の界隈」といったキーワードで、しっかり解説してもらうと腑に落ちる。異界に惹かれてしまうのは自然なことなのだ、と。 近づくこともできない掲載地も多いけれど、雄琴と三宅島には行ってみたい。もちろん成田空港にも。 [レビュアー]篠原知存(ライター) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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