「葬式をあげるお金がない」90歳父、息子の遺体を自宅に放置し逮捕…経済的な助けを求める手段はなかったのか?
葬祭扶助の対象となる費目と上限額
葬祭扶助の対象となる費目は以下の通りである。 一 検案 二 死体の運搬 三 火葬又は埋葬 四 納骨その他葬祭のために必要なもの ただし、葬祭扶助の金額には上限が設けられている。上限額は自治体によって、また、亡くなった方の年齢などによって異なるが、おおむね16万円~20万円程度である。 この上限額を超えたら、差額は自己負担しなければならない。したがって、葬祭扶助の範囲内で葬儀を行いたい場合は、その旨を葬儀会社に伝えてアレンジしてもらう必要がある。
葬祭扶助の申請方法・給付方法
葬祭扶助の申請は、実際に葬儀を実施する前に行わなければならない。たとえば、いったん借金するなどして葬儀を行って、その後で申請すること等は認められないので、注意が必要である。 葬祭扶助の申請先は以下の通りである。 ・申請者が扶養義務者の場合:申請者の住所地の市区町村役場または福祉事務所 ・それ以外の場合:故人の最後の住所地の市区町村役場または福祉事務所 そして、葬祭扶助が認められた場合、福祉事務所から直接、葬儀会社に対して葬儀費用の実費相当額が支払われる。つまり、葬儀費用の額が葬祭扶助の上限額以下であれば、いっさい自己負担する必要はない。
まとめ
本件で逮捕された90歳男性は、本来、公的医療保険から「葬祭費」として5万円を受け取ることができたとみられる。また、葬祭扶助も受けられる可能性が高かったといえる。もし、これらの制度を知っていて申請を行えば、息子の遺体を放置する必要はなく、逮捕されることもなかった可能性が高い。 葬祭扶助に限ったことではないが、わが国では、経済的に困窮した場合に補助を受けられる公的な制度が整備されている。私たちは、それらについて詳細に知っておく必要まではないにしても、いざという時に国・地方自治体からサポートを受けられるということについて、日ごろから意識しておくことが大切である。 また、あわせて、国や地方自治体の側でも、それらのセーフティネットを周知徹底するための一層の啓発活動をはかることが求められるといえよう。
弁護士JP編集部