「葬式をあげるお金がない」90歳父、息子の遺体を自宅に放置し逮捕…経済的な助けを求める手段はなかったのか?
経済的に困窮している人のための「葬祭扶助の制度」がある
このように、本件では父親は「葬祭費」または「埋葬料」を申請すれば葬祭扶助として5万円を受け取れるはずだった。 しかし、経済的に困窮している状態にある場合、葬祭費、埋葬料だけでは葬儀費用が賄いきれないこともある。特に、火葬のみで済ませるに忍びなく、葬祭としての体裁を整えたいという遺族の感情にも配慮しなければならない。 そこで、そのような人のためにある制度が「葬祭扶助」の制度である。 葬祭扶助は、生活保護制度における給付の一種として規定されている(生活保護法11条1項8号)。 生活保護制度といえば、まず思い浮かぶのは「生活扶助」の制度だと思われるが、「葬祭扶助」はそれとは別の制度である。 つまり、生活扶助を受けている人はもちろん、そうでない人でも、要件をみたせば葬祭扶助を受けることができる(生活保護法18条)。
葬祭扶助を受けられる人は?
葬祭扶助を受けることができる要件については、生活保護法18条が規定している。 (1)困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者 まず、「困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者」(生活保護法18条1項)が挙げられる。これは現に生活扶助を受けているかどうかとは関係ない。 もちろん、すでに生活扶助等の生活保護を受給していれば、葬祭扶助もすんなり認められる可能性が高かったとはいえる。 本件の90歳男性は、簡易な葬儀を行うお金すら用意できなかったことがうかがわれる。したがって、「困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者」の要件をみたし、葬祭扶助を受けることができた可能性が高いといえる。 なお、要件をみたすかどうかの判断に際しては、福祉事務所の「ケースワーカー」の質問に回答したり、各種の書類を提出したりする必要がある。 (2)亡くなった人に身寄りがない場合 本件とは無関係だが、故人に身寄りがない場合にも、葬祭扶助が認められる場合がある。以下の2つのケースである(生活保護法18条2項)。 ・被保護者が死亡した場合において、その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき(1号) ・死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において、その遺留した金品で、葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき(2号) 1号は故人が生活扶助等を受けていた場合、2号は故人が遺した金品で葬儀費用を賄えなかった場合の規定である。 いずれにしても、故人に身寄りがいない場合に、その人が入所していた介護施設や、民生委員が葬儀を担当することを想定している。