「高齢者の定義」70歳に 大企業より中小企業の方が就業機会確保に前向き、交渉次第で条件改善も
【年金世代・予備軍「シニアの居場所」】 60歳で定年を迎え、再雇用されて65歳で会社を離れ、そこからは年金をベースに生活。―これが日本の会社員の一般的な姿でした。 【アンケート結果】シニア層が働きたい職業 しかし先日、経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)で「高齢者の定義を70歳に」する提言がなされたと報じられました。これを受けてネット上などでは「70歳まで働けということか」という嘆きの声が上がったようです。 しかし、「70歳まで働け」という国の方針はすでに、2021年の高年齢者雇用安定法の改正時に明示されています。とくに年金世代予備軍に関係するのは、65歳までの雇用確保が義務化されたことと、65歳から70歳までの就業機会確保措置が努力義務となったことです。 つまり、会社は65歳まで雇用を約束し、「さらに働きたい」という従業員には70歳まで働く場を提供しなさいということです。これは年金支給時期の後ろ倒しを見越した施策と思われます。 今の会社に70歳まで勤めたいかどうかは横に置き、法改正により実態はどうなったのでしょうか? 厚生労働省が22年末に発表した「高年齢者雇用状況等報告」=グラフ=によると、定年を65歳に設定している企業は22・2%に過ぎません。大企業に限れば15・3%の低さで、まだ60歳定年が主流です。しかし中小企業は22・8%になっています。また、70歳までの就業機会確保措置についても、大企業(20・4%)より中小企業(28・5%)の方が高い数字です。 この調査は法改正からあまり時間がたっていないときに行われたもので、各企業はまだ試行錯誤の段階だったのかもしれません。それを割り引いても、財務的に充実している大企業より、中小企業の方がシニア社員の就業機会確保に前向きなことははっきりしています。 これはおそらく、人材不足からくるものでしょう。単なる人手不足で苦しむ業界も多いですが、独自の技能を持ったシニア社員の技能承継が困難な中小企業も多いと聞きます。 筆者に相談してきた知人Aさん(当時59歳)は小規模な広告代理店に勤めており、「うちの会社は60歳定年で雇用延長は認めないが、まだ働きたい」とのことでした。会社と交渉しても、いいところアルバイト扱いで、年収は半分以下。それでいて業務は変わらないといった悪条件になりそうだと話していました。しかし客観的に見ると、同社は社員の定着率が悪く、長年営業を担ってきたAさんが退職すると会社が困るのは目に見えていました。