腹をすかせたヒグマが目の前に! 恐怖は後で一気に押し寄せた なぜこんな状況に!?
「クマの習性がすっかり変わってしまった」
人間とクマの微妙な関係に興味を抱いたドゥースト氏だったが、それは予期していたよりもずっと身近な問題として目の前に迫って来た。彼とアシスタントは、山道を走行中、クマが道路脇をうろつきながら人間が食べ物をくれるのを待っているのに気付いた。「クマの習性がすっかり変わってしまったと思うと、とても悲しい気分でした」 車を止めてクマを観察していたドゥースト氏が窓を開けると、大型のヒグマが食べ物を期待して車に向かってきた。 「シャッターチャンスだ」と考えたドゥースト氏は夢中でシャッターを押した。安全な場所に避難するまでに撮った写真は6枚。5枚はぼやけていたものの、1枚はくっきりとクマの姿を捉えていた。 人間とクマの軋轢を見事にカメラに収めたドゥースト氏だったが、後になって自分とクマが危険なまでに近づいていたことを認識した時に初めて、恐怖で一気にアドレナリンが出てきたという。 その後もドゥースト氏は、人間がクマに食べ物を与えるせいで、繊細な生態系に変化がもたらされた例を目にした。そして観光客がクマにドーナツなどを与えているのを見ながら、この地域における自然保護とは動物だけではなく、人間についての話でもあると気付いた。 「これは単なる再野生化についての話ではなく、再野生化によってもたらされる機会と闘いの話です。私たちが生活の中にどのように自然を受け入れるのか、そしてそれを正しく行えばどんな恩恵があるのかという話なのです」と、ドゥースト氏は言う。だからクマに餌を与えないでほしいと同氏は訴える。そうすれば動物の命を助け、地域社会の野生動物保護への取り組みも守ることができるのだ。
文=Erin Blakemore/訳=三好由美子