「被災地なのに避難者受け入れ」複雑な福島いわき市の現状 清水市長が会見
東日本大震災から5年を迎えることを受け、福島県いわき市の清水敏男市長が8日、東京の外国特派協会で記者会見した。同市は、津波被害や福島第一原発事故の影響を受けるなど被災地でもありながら、多くの避難者を受け入れている。受け入れの経費や制度、住民感情など複雑な現状を語った。 【中継録画】原発事故で避難者受け入れ 福島県いわき市長が会見
原発事故後、一時ゴーストタウン化
いわき市は東部が太平洋に面しており、海岸線は60キロメートルある。震災では津波による大きな被害を受けた。死者は関連死も含めて461人。建物損壊は9万棟を越えた。復興の進ちょくについては、高台移転が昨年2月に宅地引き渡しが完了、災害公営住宅は今月中に1513戸の建設が完了するといい、「ハード面の復興については早いと自負している」と語った。 福島第一原発事故の影響も受けている。いわき市は北部の一部地域が原発から30キロ圏内に入る。清水市長は「当時は市民のだれもが放射性物質がどう広がっていくのかを知らなかった。同心円で広がると思い、『逃げろ逃げろ』で、街は一時ゴーストタウンと化した」と振り返った。 その後、放射性物質が風向きや地形で広がり方が違うことが分かり、現在は「日常の生活できるようになった」(清水市長)。放射線量は、市内の居住空間については東京と変わらない状況だという。
避難者受け入れの経費「足りない」
いわき市は、原発事故による避難指示区域からの避難者らを約2万4000人受け入れている。多くは原発に近い双葉郡の町村からだ。清水市長は「被災地でありながら避難者を受け入れている複雑な状況」と現状を語る。 避難者の受け入れには多くの経費がかかる。国からは年間で一人あたり4万2000円の交付金を受けているが、この金額では足りないと指摘する。ごみや水道、学校などの具体的な金額について正確に算出するのは難しいとしたが、国には避難者受け入れ自治体への財政措置を常に要請していると述べた。
いわき市に住んでいるものの住民票を移さず、かつての町村のままの状態が続いている人たちもいる。清水市長は「非常時が常態化している」といい、国に現状に即した制度設計を求めた。具体的には、住民票の取り扱いに関して時限立法的な法律をつくり、例えば“二重住民票”などのような方向性を国が示せば自治体としても対応しやすくなるとした。
もとからの市民との共生へ取り組み
もとからの市民と避難者との間の軋轢も報じられる。清水市長は「理屈では市民も理解しているが、いわき市民と双葉郡の住民では倍賞や保障に差がある。感情的なものがはなきにしもあらず」とおもんぱかる一方、こうした課題に対応するため、双葉郡の首長と定期的に協議していると語った。例えばいわき市に住んでいる間は避難者も自治会費を収めるよう働きかけることを首長に求めたという。「仮の住まいなので払えないとなるとコミュニティ自体が成り立たなくなる」と理解を求めた。 また、市民と避難者がスポーツや文化・芸術を通して交流できるような施策も行っているとした。