森万里子がデザインした3つの「レディ ディオール」。宇宙に漂う魂が輝くようなバッグの秘密とは?
3つ目のバッグは小さな「レディ ディオール」をカプセルに入れたもの。透明なカプセルは光を受けてきらめく。 「1995年から2006年まで、自分自身がカプセルに入るという《ボディ・カプセル》というパフォーマンスをしたことがありました。私にとってカプセルは時空を超越するイメージです。ディオールのバッグが時空を超えるようにという想いを込めて、このバッグが生まれました」 これら3つの「ディオール レディ アート」はもちろん、森のほかの作品にも「光」は重要なキーワードとして登場する。
「深層意識は目に見えないけれど、その見えない世界があるからこそ生命が存在するという感覚がある。生命体の持つエネルギーを感じることはできるけれど、可視化することはできない。そのエネルギーは光と同じようなもので、生きているもの一つひとつが内在する光をもっている。ひとつ目のバッグで表したように、その光がすべてと一緒になって光っているように想像します」 制作にあたってはディオールと細かく、ていねいなやりとりを重ねた。色や金具のディテールなどもその都度、職人と確認しながら検討し、進めていったという。 「職人さんの技にはほんとうに圧倒されました。ひとつひとつ、宝物をつくっている感じでした」
森は今、沖縄の宮古島とニューヨークの2カ所を拠点としている。宮古島には2022年に彼女がデザインしたアトリエができたところだ。 「沖縄には神道とは異なる祭祀ごとがあって新石器時代、縄文時代の精神が生きているように思えます。とくに宮古島には13世紀から続く伝統が形を変えずに残っていて、お祈りにも形式的ではない真摯なものを感じました。人間の本来あるべき姿があるような気がして、ここで暮らしたいと思ったのです」
豊かな自然に囲まれた宮古島と大都会のニューヨーク、両極の環境は森のクリエイションにどのような影響を与えているのだろうか。 「アイディアはどちらかというと移動中に生まれることが多いですね。宮古島では自然のエネルギーを吸収してドローイングを描き、ニューヨークでは実際に制作し、作品を生み出す感じでしょうか」 森が感じた、時空を超える光を封じ込めたような3つのバッグ。持つ人も輝かせてくれるバッグをぜひ手にとって、その光を感じてほしい。
photo_© YUTO KUDO text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano