秋ドラマ10本「視聴率ランキング」 趣里の演技が出色の「モンスター」 安定した脚本の「日曜劇場 海に眠るダイヤモンド」
完成度が高い「相棒23」
「相棒23」はいつもと変わらず完成度が高い。世界をマーケットにしている米国刑事ドラマと見比べても引けを取らない。 第1回、2回では元国家公安委員長の代議士が刺し殺される事件が発生する。続けて総理の爆破暗殺未遂事件も起こる。捜査1課は連続テロと見立てるが、特命係の杉下右京(水谷豊)は両事件が全く違うものだと推理。相棒の亀山薫(寺脇康文)と真相を追う。 元国家公安委員長殺害の犯人は同僚への冷遇を恨んだ地域課警官だった。一方、総理暗殺未遂事件の黒幕は与党幹事長という筋書き。意外な展開だったが、矛盾は感じられず、よく練られた脚本だった。 幹事長の利根川役でゲスト出演したでんでん(74)の怪演も良かった。ゲストを含め、出演者にブレーキとなる人がいないのもこの作品の強み。シーズン23はコア視聴率も悪くない。 「海に眠るダイヤモンド」の脚本は野木亜紀子氏。過去の作品は日テレ「獣になれない私たち」(2018年)などエンターテインメント色が強かった。 しかし、昨年はWOWOW「連続ドラマW フェンス」で沖縄の基地問題や米兵による性的暴行問題などを描き、社会派色が濃くなってきた。硬軟どちらの作品も秀作ばかりで、「フェンス」は権威あるドラマ賞を総ナメにした。 「海に眠るダイヤモンド」も社会派色が強い。舞台は石炭景気に沸く1955年の長崎県端島(通称・軍艦島)と現代の東京である。 野木氏は「フェンス」では沖縄を通じて日本の構造的問題点をえぐり出した が、今度は高度成長期の端島と現代の東京を使い、日本という国の正体を表そうとしているのではないか。 主人公は2人。まず端島編は炭鉱を運営する鉱業会社の事務職員・荒木鉄平。炭鉱員の家で生まれ、長崎大卒業後に自分も石炭に関わる道を選んだ。 現代編は非情になれぬ売れないホスト・玲央が主人公。どちらも神木隆之介(31)が演じている。野木氏は日本の繁栄を築き上げた名もなき人々とその栄華を浪費する現代の若者を対比させようとしているのだろう。 野木氏の主張はそれだけではない。今も続く日本社会の悪しき矛盾も糾弾している。鉄平が初回で言った通り、炭鉱員がいなかったら、高度成長期はなかったのだが、不当に軽視された。大抵は学歴がなく、真っ黒になって働いていたからである。 職業に関するいわれなき差別や偏見は今も続く。 過去の端島と現代の東京のどちらにも存在するのが、謎の老婦人・いづみ。 宮本信子(79)が演じている。いづみは過去、端島で暮らしていた。現代編で、鉄平に瓜二つの玲央に接近してくる。 若き日のいづみが誰なのかはまだ分からない。鉄平と同じ大学に通った百合子(土屋太鳳)か、食堂の看板娘・朝子(杉咲花)か、端島に渡ってきたジャズ歌手・草笛リナ(池田エライザ)か。3人とも鉄平と近い。 初回で鉄平は厭世的になっていたリナに対し、「人生変えてみないか」と言った。一方、現代編で自堕落な日々を送る玲央に向かい、いづみが同じことを言った。シンプルに考えると、いづみはリナだが、まだハッキリしない。そもそも考察を楽しむ類の作品ではないだろう。 10月第3週(14~20日)のコア視聴率はトップ。野木作品は途中から迷走することがないので、今後は個人視聴率の8%超えも十分あり得る。 「ザ・トラベルナース」は2022年にヒットした作品のシーズン2。主演は岡田将生(35)と中井貴一(63)で、役柄はともにフリーのナース。岡田が演じる那須田歩はプライドが高く、中井が扮する九鬼静は嘘吐きという欠点があるが、ともに技量と熱意が高い。 2人は西東京総合病院に赴任した。そこには労働問題などが山積していた。脚本はテレビ朝日「Doctor-X 外科医・大門未知子」(2012年)などの中園ミホ氏なので、安心して観られる。