小型ロケット「イプシロンS」爆発に人手不足の影 15万人足りない宇宙人材
イプシロンSが採用する固体燃料の機体構造は、液体燃料と比べて単純とされ、国内でこれまでに多くの打ち上げ実績がある。ではなぜ相次いで爆発事故が起こってしまったのか。森合教授は「これまでの固体燃料の技術、原因を究明する技術力、いずれもうまく継承されていないのではないのか」と人材育成面での課題を指摘する。 ●約15万人足りない宇宙人材 政府の宇宙関連予算は24年度に6000億円を超え、この10年間で2倍以上になった。一方で、課題として浮かび上がっているのが人員不足だ。 政府の宇宙基本計画では、国内市場規模を20年の4兆円から30年代に8兆円へと拡大することを掲げている。和歌山大学の秋山演亮教授のリポートによると、これを実現するのに必要な従事者は約16万人。一方、20年度時点で国内の宇宙開発現場に従事するのは8980人とされる。約15万人の差をどう埋めるのかがカギになる。 人員不足は宇宙開発計画の遅れも生み始めている。10月9日に開かれた政府の宇宙政策委員会の宇宙科学・探査小委員会では、JAXAが天文観測衛星「ジャスミン」の打ち上げ時期を当初の27~28年度から31年度に遅らせる方針を示した。その理由を「国内メーカーのリソース不足」としている。 10月11日の定例記者会見でJAXAの山川宏理事長は「活発化している流れを止めたくはない。JAXAとしてもできる支援を最大限やっていく」と話したが、そのJAXA自身も人員不足に頭を抱えている。 ●官民一体で人材の確保を JAXAの職員数は24年4月時点で1635人。発足した2003年10月の1772人から100人以上減っている。JAXAは23年度予算要求から政府に対し、10年かけて200人の人員増を目指し関係省庁と調整をするとしているが、現状は任期制の職員らでリソースを補っている状況だ。 JAXAが24年4月に公表した「マネジメント改革検討委員会報告書」では、22年のイプシロン6号機、23年のH3初号機と2つの打ち上げ失敗の根本要因に人員不足を挙げ「役割と事業の拡大にふさわしい人材強化をしてこなかった」と自戒している。 一方、秋山教授は「日本は研究者や開発者が多すぎる」との問題点を指摘する。宇宙開発を進めるためには研究者だけでなく、実際に現場で働き、研究者とのパイプ役になる現場監督者や技術者が必要だ。しかし、20年度時点での8980人のうち半数近くは研究者・開発者とされる。秋山教授は「官民で職業訓練や専門学校のような人を育てる方法を考えていかないと間に合わない」と警鐘を鳴らす。 ロケットの打ち上げ需要が伸びる中、実業家のイーロン・マスク氏が率いる米スペースXは10月に大型ロケットの1段目を空中のアームで回収する実験に成功。1段目の損傷を抑えて再利用につなげることで、1回あたりの打ち上げ費用を100万ドル(約1億5000万円)ほどに抑えられる可能性のある“完全再使用”の実現が目の前にまで迫ってきた。世界を大きくリードする存在だ。 安全保障にも関係する宇宙開発体制の強化は、石破茂政権にとって大きな課題だ。すでにH3初号機の失敗で衛星の打ち上げは1~2年ほど延期され、今回のイプシロンSの爆発によってさらに伸びる可能性もある。日本の宇宙ビジネスと安全保障を両立するためにも、官民一体となった人員の確保は不可欠だ。このままでは、国際競争において日本は取り返しのつかない後れを取ることになるだろう。
齋藤 徹