貿易戦争の恐怖に持ちこたえたか「日銀短観」5つのポイント
日本銀行は1日、9月の企業短期経済観測調査(短観)を発表した。米国と中国の貿易摩擦の影響が懸念される中、今回の日銀短観をどうみるか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらった。 【画像】金融緩和の副作用よりも、もっと問題なのは金融機関の経営のまずさだった?
◇ 10月1日に発表された日銀短観のポイントは以下の5点です。
(1)大企業製造業の業況判断DIが高水準維持
大企業製造業の業況判断DIは「最近」が+19へと6月調査から2ポイント低下。3回調査連続の低下ですが、水準は高く、かつ2017年12月調査まで5回調査連続で改善してきた経緯を踏まえれば、さほど悲観する必要はありません。日銀短観は非常にメジャーな指標ゆえ、その悪化自体が人々に景気減速を意識させるため注意が必要ですが、多くの企業が回答を終えたとみられる9月中頃以降に、米国との通商交渉において一部前向きな進展がみられるなど、明るい材料もあります。世界景気が好調な下、日本企業の景況感が一方的に悪化する可能性は低いでしょう。
(2)設備の不足感が残り、設備投資計画も強い
設備投資を占う上で注目される生産・営業用設備判断DI(全規模全産業)は▲5と4回調査連続で同じ水準でした。この指標は2016年中頃に小幅ながら過剰に転じたものの、その後は7回調査連続でマイナス圏にあり、設備の不足感を映し出しています。また雇用人員判断DI(全規模全産業)に目を向けると、「最近」が▲33、「先行き」が▲37へと一段と不足超に傾いています。そうした不足感に符号するように大企業全産業の設備投資計画は前年比+13.4%と極めて強い伸びが示されています。人手不足を解消するための省力化投資が旺盛とみられ、こうした動きが景気のドライバーになるでしょう。
(3)非製造業の販売価格判断DIが上昇傾向
価格転嫁の進展度合いを推し量る上で筆者が注目している中小企業・非製造業の販売価格判断DIは+2と3回調査連続でプラス圏推移でした。この指標は1990年代前半以降、長らくマイナス圏にあり、かつ大企業との格差が常に存在していましたが、最近は大企業とのギャップ解消を伴いつつプラス圏まで水準を切り上げています。価格交渉力が弱く、値上げに慎重な傾向がある中小非製造業は、足もとで労働コスト上昇に直面しており、それを価格転嫁すべく値上げに踏み切っているのでしょう。消費者物価でみたインフレ率はなお鈍いものの、内生的インフレ圧力が高まっている可能性が高いと考えられます。