最高峰の靴職人が集結する「FERRAGAMO」の工房をレポート:生涯を靴づくりに捧げた創業者のDNAが息づく場所
市庁舎としても使われていた由緒正しき建物
創業者がフィレンツェで最初の靴工房を構えたのが、歴史的建造物であるスピーニ・フェローニ宮殿内の一室。ここはフィレンツェのランドマーク、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂よりも古く、かつては市庁舎としても使われていた由緒正しい歴史を辿る建物だ。
トスカーナ地方の腕利きの靴職人が60人近く集められ、手作業での靴の製作が行われていた。1938年からは建物全体をメゾンが所有し、本社オフィス兼フィレンツェ本店、そしてフェラガモ美術館を構えている。
現在、世界に389店舗の直営店を持つ「フェラガモ」の工房はトスカーナ地方にいくつも点在しており、その中核を担うのがフィレンツェ郊外に位置する今回訪れた工房である。 ガラス張りで自然光が差し込む明るい建物内には、「フェラガモ」に関する数多くの著書やフォトブック、靴制作に関する書籍を集めたライブラリーと、貴重なアーカイブを保管する貯蔵庫、デザインチームのためのアトリエも設けられている。 前述したように創業者は小学校3年生で中退しているが、アメリカで靴職人として活躍し始めた頃に南カリフォルニア大学の夜間コースで人体解剖学を学び、修士課程を修めた。 デザイン性に富んだ作品を作るだけでなく、足にフィットする履き心地のよい靴づくりを追求するために、生涯を通して人体解剖学について熱心に学び続けたという。足の構造を研究したからこそ生まれた、土踏まずを支えて体のバランスを安定させたシューズはたちまち人気を博し、368にも及ぶ特許取得という素晴らしい功績にも繋がった。
そんな彼の靴づくりの哲学に触れることができるライブラリーには、人体解剖学に関する書籍も多く並ぶ。ここはメゾンの関係者だけでなく、靴職人や美術大学に通う学生にも開放されており、デザインチームの貴重な着想源にもなっているようだ。
貯蔵庫の内部には貴重なアーカイブを保管
厳重な警備が敷かれた貯蔵庫の内部には、マリリン・モンロー(Marilyn Monroe)やオードリー・ヘプバーン(Audrey Hepburn) 、ソフィア・ローレン(Sophia Loren)、グレース・ケリー(Grace Kelly)といった、ハリウッド黄金期に活躍した大俳優から貴族階級の夫人のために制作したシューズ約1万5,000足と彼らの靴の木型、60年代にスタートしたプレタ・ポルテのアーカイブが保管されている。