新Vポイント始動の裏側、短期間・低コストで実現したSnowflakeによる企業間データ連携
Snowflakeは、2024年9月12日、「Snowflake World Tour Tokyo 2024」を開催。基調講演における、CCCMKホールディングスと三井住友カードおよび、国内発電量の3割強を担うJERAのデータ利活用を紹介する。 【もっと写真を見る】
Snowflakeは、2024年9月12日、「Snowflake World Tour Tokyo 2024」を開催した。 6月にサンフランシスコで開催されたSnowflake Data Cloud Summit 2024を起点に、世界約30都市で繰り広げられる本イベント。東京開催は、事前登録が5000名を超えた。Snowflakeの社長執行役員である東條英俊氏は、「今年の目玉であり、我々が特に力を入れたのが国内事例」と説明。基調講演を含め24社のユースケースが披露された。 本記事では基調講演における、CCCMKホールディングスと三井住友カードおよび、国内発電量の3割強を担うJERAのデータ利活用、加えて、来日した本社CEOのスリダール・ラマスワミ(Sridhar Ramaswamy)氏のプレゼンテーションをレポートする。 CCCMKHD×三井住友カード:Vポイント統合のデータ連携でSnowflakeが果たしたこと 約20年前、CCCMKホールディングス(CCCMKHD)が開始した日本初の共通ポイントである「Tポイント」。2024年4月22日に、三井住友カード(SMCC)のポイントサービス「Vポイント」と統合し、決済とポイントサービスが融合した新「Vポイント」としてリニューアルした。この統合によりID数は、1.3億まで膨れ上がっている。 カルチュア・コンビニエンス・クラブのCIOおよびCCCMKHDの取締役である撫養宏紀氏は、「Tポイントを始めた時から、データの力に注目していており、パートナー企業が抱える事業課題を解決できないか取り組んできた」と説明する。 Vポイントの統合は、両社のデータ戦略における転換点となる。消費者向けにはモバイル化を推進し、企業向けには両社のデータをかけあわせてパートナー企業のマーケティングに寄与する。SMCCの執行役員 データ戦略ユニット長である白石寛樹氏は、「カード会社は商品がないため、何を買ったかというデータを持ち得なかった。顧客価値が先立つ形でポイントデータと統合データを活用していきたい」と語る。 このポイント統合にはSnowflakeを活用しており、両社異なるクラウドを利用していた中で、クロスクラウドでのデータ統合基盤を整備。撫養氏はSnowflakeだからこそ実現できたポイントを3点挙げる。 ひとつは「スピード」。「今回のような統合プロジェクトは、データ連携をどうするかが最後まで決まらない。プロジェクト自体は1年半ぐらい続いたが、データ連携の大枠が決まったのはローンチ2か月前で、項目が決まったのは1か月前。従来のやり方では間に合わなかった」と撫養氏。 2つ目は、「セキュリティ」。CCCMKHDはAzure、SMCCはAWSという別のクラウドを利用する中で、それぞれのSnowflake環境の中で安全性を確保できている。もちろん、個人情報を特定するようなデータはやり取りできないよう制御されている。 最後は「コスト」だ。「控えめに言っても、10分の1以下になった」(撫養氏)といい、Snowflakeのデータシェアリングやデータレプリケーションの機能によって、コストを大幅に削減。一般的な企業間のデータ連携における、EDIを介した一連の作業、バッチ処理やEDIを起因する障害がなくなり、開発・運用コストを最適化できた。 今後は、2社間だけではなく、外部との連携も強化していく予定だ。撫養氏は、「シングルIDにどういったデータを紐づけていくかが重要になってくる。ただ、あくまでデータを提供いただくユーザーに支持されるサービスがあるからこそデータが提供されるという順序を忘れないようにしたい」と語る。 白石氏は、「ユーザーにポイントがついて良かったと思ってもらうために、デジタル体験を提供する力をつけて、AI・データドリブンで価値を生み出せるよう注力していく」と締めくくった。 JERA:Snowflakeでデータ・AIの力を現場に、データの相互連携におけるApache Icebergにも期待 続いては、JERAにおけるデータ利活用の事例だ。同社は、東京電力と中部電力の火力事業と燃料事業を統合した、国内発電量の3割強を担う電力事業者である。 JERAがデータドリブンカンパニーを目指し、全社規模で変革プロジェクトを立ち上げたのは2019年。事業統合したばかりだったため、まずはフルクラウド化を進め、インフラを全面刷新した。そして翌年、脱炭素とビジネスモデル変革を目指す「Digital Power Plant」という発電所DXプロジェクトを立ち上げる。その2年後、データ基盤としてSnowflakeの利用を開始した。 JERAの執行役員 ICT推進統括部長である藤冨知行氏は、「このプロジェクトは、“あらゆる垣根を越えて、データとAIの力を現場に”というテーマで取り組んでいる」と説明する。 国内26か所の火力発電所では、Digital Power Plantによって働き方が大きく変わった。発電所の運営に関わる情報をリアルタイムで収集して、Snowflakeで一元管理、それを市場動向などと組み合わせてAI分析し、提案された最適解を基にアクションを実行している。「全発電所の所員が情報を等しく、時間・空間を超えて活用できるようになった」と藤冨氏。 その他にも、AIを活用したボイラー運転の最適化で、CO2を年間4.5万トン、燃料費を約1億円削減、データとAIから算出した予知保全で、メンテナンス費を20%削減している。 加えて注力するのが「脱炭素エネルギー」だ。例えば、愛知県の碧南火力発電所では、燃料の20%を石炭からアンモニアに転換する実証実験に成功している。ただ、本当に難しいのは、次世代エネルギーである水素・アンモニアを作ることであり、莫大な投資が必要になる。国内だけでは実現できず、多くのパートナーとの連携も不可欠だ。このサプライチェーンの構築では、各工程でCO2を排出していないことも証明しなければならない。 そのためにJERAが見据えるのが、各事業者の保有するデータプラットフォームをつなぐ未来だ。「排出量のトラッキングやモニタリング、バリューチェーンのトレーサビリティなどが重要なポイントになる」と藤冨氏。業界や事業者の垣根を越えて、データ活用可能な未来の実現のために、「テーブルフォーマットの共通化、データの相互連携において、SnowflakeのApache Icebergの取り組みに期待している」と語った。 Snowflakeが解決するエンタープライズAIに至るまでの“3つの課題” また、基調講演では、2024年2月に本社CEOに就任したSnowflakeのスリダール・ラマスワミ氏が登壇。12年目を迎えたSnowflakeの注力領域について語った。 Snowflakeは現在、1万以上のパートナーと協力して、1万社以上のユーザー企業にデータプラットフォームを展開しており、日々行われるジョブの実行数は実に50億万件に上る。そんな同社が今年から標ぼうしているのが「AIデータクラウド」だ。ラマスワミ氏は、「我々は、エンタープライズAIの時代を迎えている。つまり、企業がAIを簡単かつ効率的に活用できる、そして最も重要なのはAIが信頼できる時代であることだ」と説明する。 エンタープライズAIを推進するAIデータクラウドにおいて、Snowflakeは2つのアプローチを用意する。AIによってデータフローを最適化する「AI駆動のデータプラットフォーム」と企業データを用いてAIプロダクトを構築する「データ駆動のAIプラットフォーム」だ。 この2つのアプローチでAIデータクラウドとしてのプラットフォームの拡充を進めるSnowflakeであるが、AI・データを活用に至るまでに解決すべき課題が3つあるという。 ひとつ目の課題が「複雑性」だ。様々な情報ソースにわたり、より多くのデータを管理するためには複雑性は避けられない。「複雑化はサイロ化されたデータやツールによって引き起こされ、さらには専門性が自由なデータ移動を妨げる」とラマスワミ氏。この問題を解決できない限り、AI戦略は有効にならないといい、複雑性をユーザーに転嫁することは絶対にしないと付け加えた。 2つ目の課題が、「コスト」だ。複雑性とあわせてインフラコストは上昇し続けており、隠れたオーバーヘッド、高額なリソースに加え、AIの登場で予測不能なコストも発生している。Snowflakeは、シングルプラットフォームのマネージドインフラストラクチャーを従量課金で提供しており、「効率化については、決して止まることがなく、絶えず努力していく」とラマスワミ氏。 そして最後の課題は、「セキュリティとプライバシー」だ。各国でAI規制も進む中、セキュリティとプライバシーの制約を乗り越える必要がある。Snowflakeでも、Snowflake Horizonの「Trust Center」にて、リスクの見える化を進める。 ラマスワミ氏は、「我々は、あらゆるデータタイプ、あらゆるコンピュートに関わるニーズ、あらゆるペルソナを、統合され、使いやすく、TCOに優れたデータプラットフォームでサポートする」と強調した。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp