「『阿吽の呼吸』でがん退治する抗腫瘍細菌」をさらにパワーアップさせた「遊び心」とは?
<マウス実験で有用性を確認>
本研究では、AUNを4種類(セラミック、ガラス、麦飯石、ポリプロピレン)の多孔質濾過材で培養を試みました。なお、AUNを構成するUN-gyoが光合成細菌であるため、実験は光照射下で行われました。 各種濾過材で培養したAUNを、薬剤耐性乳腺がん細胞株(EMT6/AR1)を背面に移植したマウス5匹ずつに投与しました。その結果、セラミック製濾過材で培養したAUNを与えたマウスは、実験18日目で腫瘍が消失し、実験終了までの40日間で5匹すべてが生き残るなど、顕著な抗がん作用と有意なマウス生存率を示すことが分かりました。 一方、他の3種の濾過材で培養したAUNと濾過材を用いない従来のAUNでは、3日以内にすべてのマウスが死亡しました。比較のためのAUN未投与群では、すべてのマウスが13日以内に死亡しました。 <酸化チタンが抗がん性能を大幅に改善> チームは、「なぜセラミック製だけがAUNの抗がん作用や生体適合性を高めるのか」という謎を突き止めようとしました。 濾過材の元素分析の結果、ポリプロピレン以外の3種の無機材は、主成分が二酸化ケイ素(SiO₂)でよく似ていました。また、セラミックと麦飯石には、細菌やウイルスを排除する際によく利用される光触媒酸化チタン(TiO₂)が微量に含まれていることが分かりました。そこで、研究者らは「酸化チタンがAUNの抗がん性能を高めるのに貢献しているのではないか」と仮説を立てました。 検証するために、酸化チタンを内包する多孔質のポリジメチルシロキサン(TiO₂-PDMS)から成る濾過材を調製し、同様の実験を行ったところ、セラミック製の事例と同じく単回投与で腫瘍が完全に消失し、実験終了時まですべてのマウスが生き残りました。酸化チタンを含まないPDMSで培養したAUN では、2日以内にマウスがすべて死亡しました。 これらの結果から、光触媒酸化チタンを内包した多孔質体は、AUNの抗がん性能を大幅に改善する効果があると考えられます。 さらに、研究者たちは、TiO₂-PDMSは5日間の培養後、AUNの濃度を有意に減少させることを発見しました。実際、酸化チタンを含有する3種類の濾過材(TiO₂-PDMS、セラミックス製ろ過材、麦飯石)に光を3時間照射すると、細菌を弱体化させる効果のある活性酸素種が検出されました。つまり、ある時期になると活性酸素種によってAUNの生体機能に影響を与え、毒性を減らす仕組みがあるということです。