謎に満ちた「カメの起源」(下) ペルム紀の化石記録再考
「浦島太郎」や「ウサギとカメ」といった子供が親しむおとぎ話に登場し、ペットとして飼われることも多い亀は、私たちにとって非常に身近な生き物の一つです。トカゲやヘビ、ワニなどと同じ爬虫類の一種ですが、硬い甲羅を背負った胴長短足のそのユーモラスな体つきは、他の爬虫類とは大きく異なっています。 謎に満ちた「カメの起源」(中) 三畳紀に見られる不思議な甲羅 なぜ亀はあのように他の生き物とは違う独特なフォルムになったのでしょうか。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ大自然史博物館研究員・地球科学学部スタッフ)が最新の研究成果を紹介しながら解説する、「謎に満ちた『カメの起源』」(全3回)の最終回です。
最古の化石記録の重要性
前回の記事(「謎に満ちた『カメの起源』(中) 三畳紀に見られる不思議な甲羅」)において、いくつか三畳紀中後期(約2億4700万年~2億1200万年前)の地層から見つかったカメの祖先、またはその近縁にあたると考えられる化石種を紹介した。 一連の三畳紀カメの体つきなど解剖学上のデータや化石の見つかった堆積層などの情報は、初期のカメが「どのような環境に生息していたのか」という、亀(カメ)の起源に直接関わる重要な問いかけに対する答え(のようなもの)を研究者に与えてくれる可能性がある。 しかし具体的に「なぜ(=why?)」カメの祖先は甲羅を手に入れる必要があったのだろうか? このカメの「甲羅の起源」に関する具体的な理由を探る時、三畳紀後期のカメ記録では少し難しいかもしれない(前回、腹側しか甲羅を持っていなかった種をとりあげた。三畳紀後期においてカメの仲間はすでにかなり多様性を遂げていた可能性が高い)。 やはりカメの甲羅の起源の謎に挑む時、「最古の化石記録」は重要なはずだ。地質年代上「いつ頃」カメのような体つきをした種が現れたのだろうか? そして「カメの非常に遠い祖先」にあたるこの爬虫類は、具体的にどのような姿をしていたのだろうか? そのあらましを紹介する前に、是非ここでイマジネーションを働かせていただきたい。 この未知なる非常に遠い祖先は、まだ「甲羅を持っていなかった」のかもしれない。しかしどことなく亀の趣をそなえていたはずだろう。亀のように見えてカメではない。少し異彩を放つ風変わりな存在(たくさんある現生の爬虫類種を見渡しても参考にならないのかもしれない)。そのような都合のいい爬虫類の仲間が、化石記録においていままでに知られていないだろうか? 古生物における化石の「最古記録」は、この「生物40億年からのメッセージ」の連載の中で、何度も取り上げてきたテーマだ。木の起源、恐竜の誕生などと共に、「最古の化石記録」が実は「カメの起源」を探求する際、大きなカギとなる。