「孫正義にハシゴを外されて大損失」それでも尊敬できてしまうワケ
2022年に出張でパリを訪れた際には、仕事以外の時間はLVMHグローバル本部の前に建つホテル「シュヴァル・ブラン」で過ごしました。彼が接待に使っているプール付きのペントハウスに宿泊し、食事はアルノー氏専用の個室でとるなど、「ベルナール・アルノーの世界観」にどっぷり漬かることが目的だったんです。 成功の法則をまとめた書籍などがたくさん売られています。しかし、成功者の肉声を聞き、同じ体験をすることによってしかわからない部分もあると信じています。研究対象のすべてを体で感じてみたいんです。22年のパリ訪問でも、刺激や気付き、大いなる学びを得ることができました。 ● GMOが企業理念を みんなで唱和する理由 井上 熊谷さんは「GMOインターネットグループが100年単位で成長し、世の中のためになる組織になってほしい」と語られています。そのために、どんな仕組みづくりをされていますか? 熊谷 現在、グループに所属するパートナー(従業員)は約7800人。その全員にグループの理念を徹底させるのは大変です。そこで、GMOインターネットグループのビジョンや経営マインド、組織運営のノウハウや心構えなどをまとめた『GMOイズム』と題した冊子を作っています。 その冒頭にあるのが、私たちの夢や社会に果たす役割などのミッション、それを成し遂げるための事業戦略などを体系立て、明文化した『スピリットベンチャー宣言』です。パートナーは定期的に集まって全員でこの宣言を唱和しています。 井上 「唱和」とは、日本を代表するITベンチャー企業にしては、ずいぶんアナログな印象です。 熊谷 永続する組織には、こういう仕組みが必要だと考えています。企業の寿命は長くても100~200年ですが、宗教は1000年単位。宗教は、人々が集まって経典を読むという行為を通じて精神的な統一感がもたらされている。
多くの人が心をひとつにするためには、同じものを読み、同じ歌を歌い、同じポーズをするというようなことが大事なんです。私がSNSでいつも同じポーズをしているのは、そういった意味もこめています。スピリットベンチャー宣言の唱和も、「パートナーの心をひとつにする」ための仕組みです。 井上 孫さんは、19歳のときに「人生50年計画」を立てました。「20代で業界に名乗りを上げる。30代で軍資金を貯める。40代で一勝負して何か大きな事業に打って出る。50代でそれをある程度完成させる。60代で次の経営陣にバトンタッチし、300年以上続く企業に仕上げる」というものですが、熊谷さんの「15年計画」は、孫さんからインスピレーションを得たのですか? 熊谷 僕は20歳の頃、「35歳までに自分の会社を上場させる」という15年計画を立てて、それを実践し、36歳になったときに上場しました。そのプロセスの途中で、孫さんが「人生50年計画」を立てていることを知ったんです。なので、直接、影響を受けたわけではありませんが、「あの孫さんも自分と同じようなことをしているんだ」と知って、自分が考えたアプローチに自信を持つことができました。 ただ、僕に比べると孫さんは100年、300年とスケールが桁違いなんですよね。いま、GMOインターネットグループには2051年を最終年度とする「55カ年計画」があって、それをグループの定量的な目標としていますが、孫さんのスケールには大いに刺激を受けています。 井上 GMOインターネットグループは、創業から33年を迎えました。今後はどんな会社を目指していきますか? 熊谷 未来のために地球規模の課題を解決できるような企業グループになっていきたい。そのレベルまでグループを成長させたいと思っています。 過去3度の産業革命は、いずれも約55年続いているんです。日本におけるインターネット革命は「Windows95」からスタートして29年目。ようやく前半戦が終わったあたりで、1日に例えれば、まだランチタイムといったところでしょうか。ここからが勝負だと思っています。
熊谷正寿/井上篤夫