指名手配された映画監督が描く「逃亡劇」と「ジャングルでの潜伏生活」 ミャンマーの民主化を願う『夜明けへの道』
ミャンマーの著名な映画監督コパウが制作した『夜明けへの道』(4月27日より全国順次公開)は、軍事クーデター後の自身の緊迫した生活を追ったセルフドキュメンタリーだ。民主化運動のために地位や名誉を捨て、愛する家族とも離れて映画制作を続けるコパウにオンラインで話を聞いた。 【画像】指名手配された映画監督が描く「逃亡劇」と「ジャングルでの潜伏生活」 ミャンマーの民主化を願う『夜明けへの道』 ※『夜明けへの道』の配給収益の一部は、ミャンマー支援にあてられます。
死と隣り合わせの潜伏生活
2021年2月1日にミャンマーで軍事クーデターが起きるまで、コパウ(49)は映画監督・俳優として精力的に活動していた。 コメディからアクション、社会問題まで幅広いジャンルを手掛け、『涙は山を流れる』では2019年のミャンマーアカデミー賞の監督賞にノミネートされ、順風満帆なキャリアを築いていた。 ミャンマーは2011年、コパウが36歳のときに民政移管を果たした。それからクーデターが起きるまでの10年で、彼は「民主化の味を“試食”した」と語る。 「それまでは言えなかったことが自由に言えるようになり、非常に高額だった携帯電話を誰もが持てるようにもなりました。それまでの人生にはなかったものを味わうことができて誰もが喜んでいたし、この先もミャンマーはさらに発展すると信じていました」 映画制作においても技術面が大きく向上した。日本など海外との共同制作の話も進んでいたが、クーデターによって状況は一変し、未来への夢や平穏な日常は失われる。 コパウは「歴史を記録したい」と、クーデター直後から家族や最大都市ヤンゴン、民主化運動の様子を撮影しはじめ、自身も平和的なデモを主導する。ところがクーデターから2週間余りが経った頃、彼を逮捕しようとした当局が自宅に押し入る。さいわいデモに参加していて不在だったコパウは、そのまま家族のもとに戻ることなく、長い逃亡生活に入る。 本作『夜明けへの道』で、友人たちの助けを借りて隠れ家を転々とする日々を、「カーテンの隙間から見える景色しかわからない」と彼は嘆く。ひとり家にこもり、仏に祈りを捧げ、政治の本を読み、室内で身体を鍛える様子は、塀のない独房での暮らしのように孤独だ。 「パパ、今日帰ってくるんじゃなかったの?」と、父親を恋しがる二人の息子とのオンライン電話での会話は切ない。 隠れ家を移るときはいつも、当局に見つかって逮捕・殺害されるかもしれない恐怖と隣合わせだ。逃亡中の車内の隠しカメラのように不安定なカメラワークを見ていると、コパウの緊張が画面の向こうから伝わってくる。 こうした生活を半年ほど続けた後、身の安全を確保しながら民主化運動を続けるため、コパウは「解放区」と呼ばれる地域に移動することを決意。コンクリートに囲まれたヤンゴンでの生活から離れ、ジャングルで少数民族武装勢力や民主派の兵士との共同生活を始める。 そこで彼は国軍の攻撃で行き場を失った人たちなどを支援するため、2022年に『歩まなかった道』という短編映画を制作する。同作は日本を含む20ヵ国以上、50の都市で公開され、多くの寄付金を集めることができたという。
Chihiro Masuho