日本男子マラソンはなぜ世陸で惨敗したか
日本陸連の宗猛男子長距離・マラソン部長は「今の世界の状況を考えると、藤原は16~18位くらいで前田は26~28位くらいかと想定していた。今井正人が出ていればギリギリ8位に入れると考えていたが、ふたりはそのくらいの結果で御の字だと。それに加え、暑さへの適性も今井が10とするなら藤原が6で前田は3くらい。晴れて気温が上がっていく条件の中でより厳しくなった」と説明する。 昨年度トップタイムを持ち、暑さにも強いと評価されていた今井が体調を崩して欠場したことで、今回の苦戦は予想されていたものでもあった。 世界が2時間3分台、2分台と進化しているにもかかわらず、昨年は2時間8分台に止まり、今年も2月の東京マラソンで今井が2時間07分39秒を出しただけ。日本男子マラソンの弱体化は、記録が明確に示している。日本記録は02年に高岡寿成が出した2時間06分16秒だが、現役選手の最高は2月に今井が出した記録で、それも日本歴代でも7位に過ぎないからだ。 そんな低迷に刺激を与えるため、日本実業団連合は、今年3月に男女マラソンの日本記録樹立者には1億円、その指導者にも5000万円のボーナスを出すと発表した。これは低迷している現状を危惧し、選手やコーチに記録を目指す意識を持ってもらいたいからだ。 だがそれは、直ぐに結果につながるものではないだろう。各選手たちの心の中には、自分のマラソンに対するイメージが出来上がっているからだ。経験があればあるほど後半の大失速が気持ちや体の動きを縛りつけ、積極的なレースが出来なくさせることも多い。 そんな状況をどう打破すればいいか。宗部長は「今回のレースを見て、すごく力の差があると感じた。現状の選手で世界と勝負するのは厳しいものがあるが、若くて勢いのある選手がマラソンに挑戦し、その中で暑さに強い選手を代表に選べるようになれば世界選手権や五輪では十分に戦えると思う」と話す。 東京五輪開催決定以来、若い選手がマラソンを意識し始め、その練習にも取り組もうとしている。そんな選手たちが学生時代には留学生選手にも敢然と挑んで力を伸ばしたように、マラソンの日本記録を壁とも思わずに狙い、そのための練習を着実にしてくれるようになれば。そうなれば誰かがポンと結果を出し、それに続いて複数の選手が記録更新を果たす勢いも生まれてくるはずだ。まずはそういう状況になることが最も必要 だろう。 宗部長は以前から「若くてスピードがあるうちに、マラソンに挑戦してほしい」と話していた。そんな意識を持ってマラソンに取り組もうとしている若い世代の選手たちにとって、この惨敗も「俺たちがやらなければ」という起爆剤になってもおかしくない状況に、今はなりつつあるといえる。 (文責・折山淑美/スポーツライター)