「政治資金パーティー裏金事件」にマルサは動くのか? 元国税調査官が徹底解説!!
自民党派閥による政治資金パーティー裏金事件。東京地検特捜部は虚偽記入の金額、つまり"裏金化"した金額の立件ラインを3000万円と見定め、岸田派側の起訴を決断した。さらに、今回の裏金事件は「脱税」にあたるのではないかという指摘も続出しているが、果たして国税は動くのか? 元国税調査官の松嶋洋氏が解説する。 【写真】大混乱の自民党 * * * ■政治家は特別扱い? 私も、今回の裏金事件は「脱税」にあたる可能性が高いと考えています。 まず、政治団体の政治資金は、原則として非課税となります。このことに関して「特権」「聖域化」などと糾弾する声もありますが、法律でそう定められている以上はひとまず問題ないとしか言いようがありません。 しかし今回の問題の焦点となるのは「還流」、つまりキックバックの部分です。政治団体には、政治資金を記載した収支報告書の提出が義務付けられています。しかし、虚偽の記載により、還流が報告書に含まれていなかったといいます。 であれば今回、還流は政治資金ではなく雑収入として課税対象になります。それを故意に申告していなかったとあれば所得隠しであり、脱税行為になります。 政治家による脱税疑惑が露見し、SNSなどでは「国税庁は動かないのか」という声が噴出しています。一般人の場合、ちょっとした申告漏れでも厳しく追及されますし、何も悪いことをしていないのに税務調査を受けることもあります。それなのに政治家はお咎(とが)めなしとあれば、「特別扱いを受けている」と怒る人がいてもごもっともだと思います。 所得漏れの例では、2019年にお笑いコンビ・チュートリアルの徳井義実さんが税務調査によって約1億2000万円もの申告漏れが判明し、一時活動休止に追い込まれるほど世間から大ブーイングを受けました。 また、直近では「頂き女子りりちゃん」が勤務先の風俗店やマッチングアプリで知り合った男性からだまし取った金、約1億1000万円を申告せず、所得税約4000万円を脱税した疑いがあるとして告発されています。今回のケースと一体何が違うのでしょうか。 ■マルサに立ちはだかる壁 まずひとつ勘違いを訂正しておくと、特捜部の立憲ラインである3000万円を超えた裏金に関しては追徴対象になるということです。 国税庁の仕事は手続きに則って粛々と税を回収することです。たとえ犯罪で儲けたお金であろうと、決められた額を機械的に納めてもらえば何ら問題としない。そういう機関です。 言い方は悪いですが、彼らに"正義"はありません。正義を執行するのは警察の仕事。きっちりと棲み分けがなされているわけです。それは、政治家に対しても例外ではありません。本来は。 しかし、今回議論となっている「収支報告書の修正問題」に関しては、私は国税庁がさらなる追求に動くことはないと考えています。「収支報告書を修正しているということは、もっと多額の脱税があるはず」。そう思われる方もいるかもしれませんが、これがなかなか難しい。 悪質な不正申告をした納税者には、国税査察官(通称・マルサ)による強制調査が行われる場合があります。マルサが動くひとつの基準として古くから言われているのは、「1億円」。マルサの税務調査には多くの職員がかかわるため、1億円程度はなければマンパワーとペイしないからです。 マルサこそ動いていませんが、前述の徳井さんも1億円の資産の動きがありましたし、「頂き女子」の所得の申告漏れも1億円です。近年は日本経済の縮小もあってか、基準となる金額が下がっているとも言われていますが、それでも3000万円では少ないと思われます。 また、今回は相手が政治家であるという要素も大きいと考えられます。相手が相手ですから、脱税捜査を空振る、など絶対に許されないからです。 ■「証拠主義」という鉄の掟