社説:中3殺害の再審 検察は決定受け止めよ
2度目の再審開始決定を真摯(しんし)に受け止め、検察は異議申し立てをせず、裁判やり直しの扉を開くべきだ。 福井市で1986年、女子中学生が刺殺体で見つかった事件の第2次再審請求で、名古屋高裁金沢支部は殺人罪で服役した前川彰司さん(59)の再審開始を決めた。 明らかな物的証拠がない中、確定判決が有罪の根拠とした知人ら複数の関係者の供述について、「自己の利益のためにうそを言った可能性がある」として信用性を否定した。 事件発生から約1年後、殺人容疑で逮捕された前川さんは、捜査段階から一貫して無実を主張してきた。 先日無罪が確定した袴田巌さん(88)は58年もの歳月を要し、刑事司法史に残る人権侵害になったが、前川さんの37年に及ぶ再審開始の道のりもあまりに遠い。 裁判は、証言の信用性を巡って、一審の無罪判決が二審で逆転有罪となり、懲役7年が確定した。満期で出所した後の2004年に前川さんは再審を請求し、11年、高裁支部がいったん再審開始を認めたが、検察の不服申し立てで覆った。 22年の第2次再審請求が認められた決め手は、これまで検察が開示してこなかった捜査報告書を含む計287点の新証拠だった。 「血の付いた前川さんを見た」と証言した関係者が、事件当日に視聴したとするテレビ番組は放送されていなかったことが判明。警察は証言者に飲食などの優遇も図っていた。 高裁支部は、捜査が行き詰まっていた警察が「誘導などの不当な働きかけをした疑いが払拭できない」と判断した。 さらに、誤った事実関係を検察も把握しながら有罪立証を続けたとして、「不誠実で罪深い不正な行い」と指弾したのは重大だ。 改めて審理の長期化も問われよう。 捜査機関が事実上独占する証拠の開示ルールがない。袴田さんが再審無罪になった静岡県一家4人殺害事件でも30年近く開示が認められなかった。 今回も検察は開示に消極的だったが、裁判所の強い要請に応じた。公的な権力が集めた証拠は公共財であり、恣意(しい)的に扱われてはならない。 裁判官の裁量に委ねられている開示を制度化するとともに、再審開始への検察の不服申し立てを禁じる法改正が急がれる。