【問う 時速194km交通死亡事故】危険運転致死傷罪に数値基準 法務省有識者検討会が条文見直しの報告書案を公表
「不条理」解消できるか
<解説>法務省有識者検討会の報告書案は、危険運転致死傷罪の構成要件を明確にするため、法改正を迫った内容と言える。 背景には「過失とは言えない悪質な事故に厳罰を科す」という立法時(2001年)の目的が果たされてこなかった経緯がある。 18年12月に津市で時速146キロの車がタクシーに激突して5人が死傷した事故で、一審津地裁と二審名古屋高裁はいずれも危険運転を認定しなかった。 今年5月には群馬県伊勢崎市で、トラックが乗用車に突っ込み、家族3人が死亡。飲酒していたとされる運転手を前橋地検は当初、過失運転の罪で起訴。遺族が署名活動をした後に危険運転の罪に切り替えた。大分市の時速194キロ死亡事故でも、同様の経過をたどって訴因変更されている。 報告書案が示した数値基準は、繰り返されるこうした「判断のぶれ」に終止符を打つのが狙いだろう。 曖昧さを排除する見直しとして評価できる一方で、多くの人が納得できる数値の設定や、立証する手段の確保といった課題は依然として残る。 不条理は解消できるのか―。遺族たちが悲嘆しながら「過失で起こす事故ではない」と街頭で声を上げることがないように、23年前の立法趣旨に立ち返った議論が求められる。 <メモ> 大分市の事故は2021年2月9日深夜、同市大在の県道(制限速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(23)が乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折中だった乗用車に激突。乗っていた同市の男性会社員=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた―とされる。大分地検は当初、男を過失運転致死罪で在宅起訴。遺族が「過失なわけがない」と署名活動を展開した後、地検は危険運転致死罪に切り替えた。今月5日に大分地裁で裁判員裁判が始まり、15日に結審する予定。判決は28日。 <危険運転致死傷罪> 悪質な交通死傷事故に厳罰を科す目的で、2001年に創設された。制御困難な高速度のほか、▽ことさらに赤信号を無視▽妨害目的による運転―といった計8類型の運転が対象となる。法定刑の上限は懲役20年で、過失運転致死傷罪(懲役7年以下)より格段に重い。