[新政権の宿題]森トラスト伊達社長「建築・交通の規制緩和で観光立国へ」
国内の観光客に関しては、これまでの推移をどう見ていますか。 伊達氏:国内では若者の旅行離れが取り沙汰されてきましたが、インバウンドブームで良質なホテルができると、単価が高くても行きたいというニーズが顕在化し、国内の観光客の旅行消費額も、21~23年には年間数兆円単位で伸びてきました。今後、日本人の消費単価は、人口減の中でも横ばいの水準は維持したいですね。 石破茂新首相は地方創生を重視しています。地方への誘客促進策として、岸田前首相は31年までに全国に35カ所ある国立公園を「世界水準のナショナルパーク」にするため、「民間活用による魅力向上事業を実施」する方針を示しました。 伊達氏:訪日客数6000万人を目標にするのなら、国立公園のようないわば「トップ・オブ・トップ」の場所だけではなく、既存の観光エリアも見直す必要があるのではないでしょうか。京都など集客しやすいエリアには新しいホテルもできていますが、そうではないところは補助金が出ず、バブル期の投資からインフラも古いままということも考えられます。 ●規制緩和が不可欠 規制緩和も重要です。日本には、軽井沢のような訪日客を引きつけられる魅力を持つ地域がいくつもあるのに、建築基準法や都市計画法などの各種の規制が妨げになって、そういった場所に、世界と肩を並べる規模のラグジュアリーホテルを開発するのが難しいのです。 ほかにも見直すべき制度や仕組みはありますか。 伊達氏:大きなテーマとして、交通の拠点となる駅などから観光地までの足となる「2次交通」をストレスなく使える環境づくりが挙げられます。現状の「日本版ライドシェア」では、ドライバーはタクシー会社への登録(編注:会社から業務上の管理を受ける)が求められますが、海外と同じく登録不要にしてもよいのではと思います。柔軟な稼ぎ方ができるのがライドシェアのメリットです。 あとは、同じくシェアリングエコノミーの一形態である民泊は、事業者は行政への登録で営業が認められますよね。安全性が懸念されてきましたが、今まで大きな問題は起きていません。民泊は実現したのに、なぜライドシェアだけタクシー事業者への登録が必要なのか。ゆがんだ形になっていると思います。 ホテルと同様、ドライバーも需要が多い時の人員確保が一番大変なので、一般のドライバーの力を借りるのは、繁閑を調整するためにある程度仕方ない側面があります。料金については、日本版ライドシェアではタクシー料金と同じ水準と定められています。ですが、私はホテルの宿泊費と同様に、ライドシェアもタクシーも(事業者が需給に応じて利益を確保できる)ダイナミックプライシングを導入してもよいと思います。ただ、高齢者や妊婦など、支援が必要な方には病院に行くための乗車料金には補助を出すといった公共のサポートはできるのではないでしょうか。 資金を集める方法として、受益者負担である宿泊税の拡充も訴えてきました。 伊達氏:宿泊税などからの予算を、観光振興に寄与する主体に振り向ける仕組みを国主導で組んでもらいたいと思います。民間事業者だけではできない部分もあるからです。例えば、日本にはMICE(国際会議や展示会)施設が足りないといわれますが、福岡市は宿泊税をMICE施設新設などに活用すると表明しています。 現状の宿泊税の制度では、税額や使い道を都道府県がそれぞれ設定して国に申請するのですが、その際に、宿泊事業者との協議があまりなされていない印象を受けます。また使途が曖昧な自治体もあると感じます。国、地域としてどのくらいの収益を求めるのかによって課題を整理し、国主導で制度設計をしてほしいですね。 1泊につき一律いくらと設定する定額制をとる自治体が多いですが、ホテルの宿泊費に比例する定率制のほうが、公平性が高いのではないでしょうか。税率を、物価の変動に応じて柔軟に動かすこともできると思います。国際基準を見ながら率を設定し、例えば修学旅行生や地元の方からはもらわない、もしくは別途、異なる率を設定するなどの手もあります。 ホテルの働き手も足りません。観光業界で働く人材を日本で育てながらも、やはり外国人の方を受け入れるための環境づくりが不可欠です。外国人を受け入れるには、ビザの取得や住宅の用意など、様々な準備がありますよね。国が「外国人共生プログラム」を作成し、各自治体に埋め込むこともできるのではないかと思います。 新政権には、目標を明確にして戦術に落とし込みながら、最終的には各地域が自立して、観光産業を持続できる仕組みを5年、10年でつくることをロードマップ化していただきたい。 どの課題にも言えますが、何か起きてから事後処理するのではなく、予見できるものの処理方法を考えて事前にプログラムを組まなければなりません。私自身、経営に携わる中で、変革を続けなければ停滞を招くことを実感しています。国の経営も同じことではないでしょうか。社会環境の変化に対応した持続的な成長戦略を、共に模索していきたいと思っています。
馬塲 貴子