社長も知らない億単位の稟議書 ドンキ社員が堂々言い放った言葉
トップの声では動かないけど、「自分事」では動く社員
ドンキの社員たちは、社長の僕が指示する前に勝手に動いているだけではありません。 逆もまた真なり(笑)。僕が何か指示しても、簡単には動かないのです。 こんなことがありました。ドンキは「majica(マジカ)カード」という会員カードを発行しています。しかし、カードではサービスの拡張性がなく、アプリに移行する必要がある。僕は経営会議で、マジカカードをアプリ版に移行しなければならないと、何度も訴えました。対外的にも「マジカのアプリ会員数を、現在の350万人から1000万人へと3倍にします!」と宣言していたので、正直、アプリ版に移行してくれないとヤバいと。 ところが、トップの僕が何度話しても、幹部は誰も積極的に動いてくれませんでした、見事に(笑)。トップダウン型というのは、うちにはあまりなじまないんですね。 それなのに、1000万人会員をつくる、という僕の考えに共感してくれたマジカアプリの担当者が、いろんな店に足を運んで現場とコミュニケーションを図っていったら、カードからアプリへの切り替えが一気に進みました。アプリ会員は、あっという間に1000万人の目標をクリアし、今では1500万人に達しています。 社長の僕に言われても幹部も社員も動きませんが、現場が腹落ちしたらみんな徹底的に動いてくれる。それでいいの?と言う方がいるかもしれませんが、僕は、結果が全てだから、それでいいと思ってます。 もちろん、社長が「これやってくれ」と言ったときに、スッとうまくいくこともたまにはあります。ただし、それは「現場の人たちが納得した場合」という鍵カッコ付きです。なぜなら、ドンキの現場は「自分事」で仕事をしているからです。指示をされたから動くのではありません。自分の心に火が付かないと誰も動かないのです。現場の人が最もお客さまのことをわかっています。 僕は、安田会長がしょっちゅう社員や役員を説得しているのを見ました。当社の社員も役員も、小売業というサービス業にいますから、基本的にはフレンドリーな人材がほとんどですが、頑固です。安田会長の言葉でも、まず自分が納得したい、と思うわけです(当社用語では、それを「腹落ち」と呼びます)。 そして、安田会長もそのプロセスをものすごく大切にする。だから、長時間、安田会長は言葉を尽くして、自分の考えを従業員や役員に説明することを大切にしてくれています。でも、こんな上司と部下の関係、普通の会社ではあり得ないでしょう。
吉田 直樹