山中慎介が語る井上尚弥の圧倒的な勝利「僕とネリとの因縁も終わった」
【ダウンした1ラウンドの様子】 ――ネリは前日計量で500グラムのアンダーでした。軽量級でここまで下回るのは珍しいのでは? 「54.8キロですから、バンタム級で僕と2戦目をやった時の、1度目の計量より軽いですね(※)。ただ、ゲッソリしているようには見えず、きちんと減量して絞り込んできた印象でした」 (※)スーパーバンタム級は55.34キロ以下で、バンタム級は53.52キロ以下。2018年3月1日に行なわれたWBC世界バンタム級タイトルマッチの山中vsネリの前日計量で、ネリは1回目、2.3キロオーバーの55.8キロ。2時間後の2回目でも54.8キロと1.3キロオーバーだった。 ――試合は初回、井上選手がネリの左フックでダウン。あれはメキシカンが得意とする「ボラード」と呼ばれるパンチですか? 「その軌道でしたね。あの距離、あのタイミングしかないというドンピシャなパンチで、しっかり当てたのがすごい。おそらくネリは距離を詰めて、尚弥の打ち出しか打ち終わりにカウンターを合わせることを作戦のひとつとして考えていたんでしょう。それがハマったのではないでしょうか。もちろん、ネリが"感覚"で当てた部分もあると思いますが」 ――そのシーンはまさに、井上選手が右を打ちにいった瞬間でした。 「尚弥もちょっと粗さがあったんですよね。本人もそんなコメントを出していましたが、やっぱり東京ドームという大舞台で、これまで以上に気合が入っていたのかもしれません。攻撃的なネリを力でねじ伏せよう、という気持ちも少しあったのではないでしょうか」 ――本人も試合後、「浮き足立った」と話していました。 「結果論になりますが、気負いというか、いつもと少し違う部分はあったかもしれないですね。特に1ラウンドは、粗さ、力みがあった感じです」 ――立ち上がりから、井上選手がオーバーハンドの右を打つシーンが印象的でしたね。 「ガードの上からでも、パンチの強さをネリに感じさせるためでしょう。怖い印象を与えるという意図で打ち込んだんだと思います。スーパーフライ級時代には、(オマール・)ナルバエスをガードの上から叩いて倒したこともありましたね」 ――井上選手がダウンした瞬間、同じく東京ドームで行なわれた、マイク・タイソンがジェームス・ダグラスにKO負けを喫した"ボクシング史上最大の番狂わせ(1990年2月11日)"が頭をよぎりました。 「パッと浮かびましたよね。やはり、この東京ドームには何かあるのかと。目撃した人たち全員の時が止まったといいますか......。あらためて、ネリの強さも感じましたね。 ただ、尚弥が右を打ちにいく瞬間だったので、ネリの左フックの力が同じ方向に流れてダメージが軽減された部分もあるでしょう。まったく効いていなかったわけではないでしょうけど、大きなダメージはなかった。8カウントまで座ったまま回復したのも見事でしたね」