韓国の保守はなぜ無能なのか【コラム】
クォン・テホ|論説委員室長
朴槿恵(パク・クネ)元大統領が韓国の政治史に貢献した部分がある。「朴正熙(パク・チョンヒ)神話」を不可逆的に崩壊させたことだ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領にも韓国の政治史に貢献している部分がある。「保守は有能だ」という蜃気楼を完全に壊滅させていることだ。 考えてみると、「保守は有能だが道徳性に問題があり、進歩は正直だが不安だ」という古くからの考え方は、作られた神話だ。1948年から1997年までは保守政権ばかりが政権を握っていた。親日勢力-軍-官僚とつながる「立身出世し名をあげること」を追求したその時代の韓国社会のエリートたちを独占した。そして財閥と共に韓国社会の巨大な既得権層を形成しつつ、「保守有能神話」を膨らませてきたのだ。この神話が初めて、突如として崩壊したのは通貨危機の時だった。そして、過去回帰型の朴槿恵政権で再び確認された。国政壟断事態の前も朴槿恵政権は、中身はもちろんスタイルの面でも無能さと時代遅れの退行的な姿をさらし続けた。そして、第3期保守政権に当たる尹錫悦政権は、「準備のできていない政権」が国民にどのような弊害を及ぼすのかを身にしみて経験させてくれる。 例を見てみよう。大半の国民は医師の増員に賛成している。だが「いかなる犠牲が伴っても」強行し、すべての国民を不安に陥れても構わないというようなやり方を望んでいる国民はいない。根拠が不明確な「ひとまず2000人」で強行突破し、「降伏」ばかりを要求する。レーザー手術に包丁を持って臨み、腫れ物はそのままで、鮮血ばかりがあふれ出ている格好だ。昨年10月の年金改革ロードマップの発表では、24本のシナリオを国会に押し付けて「勝手に選べ」と言ったかと思えば、国会公論化委員会が単一案を示したら「次の国会で議論しよう」と言う。かと思えば「差をつけた引き上げ、自動調整装置」案を示す。方策の問題点はひとまず置くとして、今さら示すならなぜロードマップ発表の際に示さなかったのか、この案はいつから議論したのかが疑問だ。北朝鮮の「ごみ風船」には「9・19合意」破棄で対応した。南北合意破棄の責任は自ら被ったが、「ごみ風船」は南下し続けている。大統領の初の国政ブリーフィングは、唐突な「東海(トンヘ)での石油ボーリング」の発表だった。発表するやいなや、あらゆる疑惑がふくらみ、釈明に追われ、今や誰も触れない。総選挙直前に「国民の暮らしに全力を尽くす」として週2回ずつ全国を巡回し、首都圏広域急行鉄道(GTX)の新規路線、鉄道・道路の地下化推進などのあらゆる地域開発公約をあふれさせた。ほとんどが予算・立法処理手続きを経なければならない事案だ。この中に推進できるものがいくつあるかは疑問だ。「カルテル」だと言って大幅に減らしたものの、わずか1年で原状復帰した研究・開発(R&D)投資予算、混乱を引き起こした「海外からの直接購入」政策、空売り禁止による混乱、右往左往する貸付金利政策など、例をあげればきりがない。一言で言って問題解決能力がない。 なぜこのようなことが発生するのか。政治も行政も経験せぬまま、検察でやっていた通りにやるからだ。検察の捜査は外部には隠されている。「尹錫悦師団」の特徴は、捜査対象者に最大限の圧力をかけ、証拠収集のためには違法も辞さない、というものだった。そのようにして成果をあげたこともあったが、後に裁判で無罪判決が下された際には何の責任も取っていない。複雑な国政運営を被疑者を捜査するようにやるものだから、何もうまくいかない。国政は未来を見極め、検察は過去をあさる。国政は人材を探し、検察は犯人を探す。国政は何かを築きあげ、検察は何かを壊す。「破壊王」尹錫悦が国政の責任者にふさわしくない理由はここにある。 このように困難に直面した時は、何を誤ったのかを振り返ることを知っていなければならない。ところが、尹大統領には自己客観化能力がない。経験がないなら謙遜しなければならない。だが、総選挙で壊滅的な敗北を喫しても気づかない。だから、任期末まで変化を期待することは難しい。何より公的意識の欠如は、公職者としての不適格要件だ。 だが、保守はなぜ自分たちを壊滅させた尹錫悦を候補に立てたのか。尹錫悦のどこに保守の価値観があるのか。「だめならだめでないようにせよ」、「撲滅しよう共産党」の尹錫悦バージョンが「よし、速く行け」と「即時に、強力に、最後まで」だ。近代化時代に歪曲された方法論であり、これは価値観ではない。「道徳性、責任、伝統、品格」という保守の本質的価値観が尹錫悦にはない。にもかかわらず保守が尹錫悦を選んだのは、「勝てる候補」に賭けたからに過ぎない。保守が「価値観」ではなく、政権獲得で得られる「利権」ばかりを貪った結果だ。今になって保守も驚いている。「こんなにも無能だったのか」と。「価値観」ではなく「利権」ばかりを貪る限り、今後も「保守」は無能であり続けるだろう。私たちは大統領を選び間違えた。保守はその原因を探ることから再出発すべきだ。 クォン・テホ|論説委員室長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )