トランスジェンダー女性・インフルエンサー花上惇さん「“女性になる”決意は人生最大の覚悟」
“BITCH!”。印象的なフレーズから始まる動画で、一躍人気インフルエンサーとなった花上惇さん。視聴者の気持ちに寄り添い、独特な言葉とスタイルでポジティブマインドを発信し続けています。また、トランスジェンダー女性であることを公表し、ホルモン治療の様子などについても投稿しています。 【写真】花上惇さんインタビュー ショット そんな花上さんにも、過去には自分に存在価値を感じられず卑屈になっていた時期が。「自分に正直に生きる」ことをモットーに掲げる今に至るまでの、人生のターニングポイントと学び、心境の変化を振り返ってもらいました。
【初めてのカミングアウトは中学生。拍子抜けするほどあっさりした反応が逆にうれしかった】 ――富山県で生まれ育った花上さん。“男性らしくない振る舞い”をからかわれ続けて、いじめられないためにギャル男に扮していた時期もあったそうですが、初めてご自身のセクシュアリティを人に打ち明けたのはいつですか? 花上さん:初めてカミングアウトしたのは中学生のとき。小学生の頃から人にからかわれ続けて、オカマって呼ばれたり、気持ち悪い、死ねとかも散々言われてきたから…“みんなそう思うんだ”と感じて、自分のセクシュアリティを人に言えなくなっていたんです。 でも中学で、すごく仲良くなった友人がいて。隠したまま付き合い続けることもできたけど、そのせいで腹を割り切れない自分がいたんです。後めたい気持ちが拭えないというか…恋愛の話をするにしても、セクシュアリティを打ち明けたほうがスムーズに会話できるし。心から話すためにも、身近な友達には知ってほしいなという気持ちが芽生えて打ち明けました。 ――カミングアウトした際、ご友人からはどんな反応がありましたか? 花上さん:相手は一匹狼というか群れないタイプの男子だったから、噂を広めなさそうだな、という安心感もあったのかも。当時は自分をゲイと表現して打ち明けたんですけど、「あ、そうなんだ」という感じでサラッと受け入れてくれた。拍子抜けするほどあっさりとしていたことが、逆にうれしかったですね。 そういう人もいるんだ!という希望につながったし、私は孤独じゃないんだ、とも思えた。それを機に、仲良くなった人に打ち明けることに抵抗がなくなりました。 【自分は珍しい存在じゃない。ならば隠さなくてもいいよね、と思えた】 ――高校を卒業後、歌手を目指して東京の大学に進学されました。初めてご実家を離れての新生活では、ご自身との向き合い方に変化はありましたか? 花上さん:生まれ育った富山県は、田舎で閉鎖的な県民性もあり、自分以外のゲイ男性に出会う機会はほとんどなかった。理解してくれる友達はいたけれど、やっぱり孤独を感じていたし、多くの人は理解してくれないだろう、と卑屈になっていました。 そんな意識が変化したのは、初めて新宿二丁目を訪れたとき。当たり前に男同士、女同士で手をつないでいたり、トランスジェンダーの人が堂々と歩いていたりする世界を見たときの衝撃は、忘れられないですね。瞬時に、“私は東京で生きていこう”と決めました。 ――そのときの心境について、詳しく教えてください。 花上さん:私なんて、珍しい存在でもなんでもないじゃん! いい意味で、そう思えたんですよ。それまでは、自分がすごく珍しい生き物だと思っていて。こんなにたくさんLGBTQの人がいるならば、別に隠さなくていいじゃん、みたいな。自分のセクシュアリティを話すことに、より抵抗がなくなり、自分らしさを表現するキッカケとなりました。 【私は必要とされる人間なんだ! 初めて自分の存在価値を知った】 ――自分らしさを表現できるようになったことで、どのような影響がありましたか? 花上さん:新宿二丁目を訪れて視野が広がったとはいえど、学生時代に蓄積された劣等感やコンプレックスは、なかなか無くならなかった。大学を卒業してからも歌手になる夢をかなえられず、さらに落ち込んでしまい…暗くて卑屈で斜に構えた、自分で思い返しても嫌になるタイプの子でした。 ――今の花上さんからは、想像もつきません。 花上さん:今の明るさを身につけられたのは、ミックスバーで働くようになってから。それまでは昼間のお仕事をしていたんですけど、合わずに病んで辞めてしまって。LGBTQの人が在籍するバーに入店して、接客業を始めました。 得意な歌を生かしてカラオケで盛りあげたりするうちに、お客さんが私を指名してくれるように。休みの日にも「今日じゅんじゅんいなかった!」とお客さんから連絡をもらったりして、“私って必要とされる人間なんだ”と初めて感じられたんです。“自分の存在価値って何だろう?”と思いながら生きてきた人生に、一本の光が差し込んできたような感覚があったな。 ――ご友人や恋人から必要とされるのとは、どのような違いがあるのでしょう? 花上さん:友達や恋人はいたけれど、ずっと“私なんかと一緒にいてくれてありがとう”という感覚で付き合っていたんですよ。対等な関係ではなかったし、“私といてもつまらないだろうな”って。ね、卑屈でしょう?(笑) たくさんのお客さんに認められることで、“私って人を楽しませることができるんだ”と心から思えたことが大きいかな。当時の私を知っている友達や弟からは、「本当に変わったよね」と言われるほど明るくなり、その結果、すごく生きやすくなりました。新しい人と出会うのも億劫でなくなったし。