尾上右近&松田元太、声優初挑戦で結ばれた“兄弟の絆”「すごく救いになった」【インタビュー】
■尾上右近、松田元太がヴィランに転じる声は「綺麗な水色がダークブルーに…」
――右近さんは、松田さんとタカがリンクする部分をどこかで感じましたか。 右近:やっぱりドンズバのセンス。人としての芯の強さと、男の子らしさ、でもその裏にある優しさと愛くるしさ、かわいらしさっていうところはタカに近いものがある。でも、僕がタカのことをお話するなんておこがましいぐらい、タカに対する愛がめちゃくちゃ深いこともきょう一緒に話を聞いていて感じました。 松田:うれしいです。タカは王様を目指すというより王の家系のなかで、父の教えを守りながら育ってきた。ムファサと出会い、ムファサに対してリスペクトもたくさん見つけていく。色んなことを葛藤していく中で、自分とも思考が似ている部分、リンクする部分がちょくちょくあったりもします。こういうこと考えているのだろうなとタカの表情とか目つきも含めて感じ取れるから、スカーになる直前、スカーになっている最中のタカの姿は結構、苦しかった。タカを演じた1人として1番タカの味方でありたいという気持ちもありながら、タカの優しさやムファサへのいろんな思いが自分の中でぐわ~ってかけ巡りました。 ――ムファサと右近さんがリンクするところはありましたか。 松田:「俺が王だ!」っていうより、本当に座長というか、みんながついていきたくなるし、色々教えていただきたいなと思わせられる姿、言葉、行動のすべてがやっぱりカッコいいなと尊敬が生まれました。会ったばかりなのに、僕自身も大好きになりましたし、タカもムファサのことも大好きなので、そこはすごく同じ感覚です。 ――右近さんは演技のアプローチについて前作までムファサを演じてきた大和田伸也さんから受け継ぐ部分はあったのでしょうか。 右近:今回の吹替えでは大和田さんが作り上げた『ライオン・キング』に登場するムファサにつながるようなイメージを持って臨みました。立派な大人の男が若い時はどうだったのか。そのプロセスを見せるのが今回のムファサの役割だと思っているので、未完成なムファサが完成したムファサにつながっていく点線は見える…といったイメージでやらせてもらいました。 ――松田さんはタカがスカーというヴィランになっていく過程を魅せる上で二面性をどう演じましたか。 松田:スカーになった瞬間も大事ですが、タカがスカーになる前、タカである時の時間を改めて自分の中で解釈して落とし込んで声に乗せる作業はしました。自分の中で、タカはこういうライオンだろうなとか、こういう思いで今こう過ごしているんだろうな、と台本を読みながら演じてみたり。スカーになっていくポイントは徐々にジワジワグツグツとくるものもあれば、コロッといくような時もある。その恐ろしさ、感情の変化を大事に演じたい、声にしたいと思いましたし、スカーになる瞬間は命がけの思いがありました。 ――実際の収録はいかがでしたか。新鮮に感じたことやディレクションで印象に残ったことはありますか。 松田:やることがすごくたくさんあるんだなと勉強になりました。リップを合わせなきゃいけないタイミングもそうですし、自分の発した言葉を一度聞き直すと、自分が思っていたつもりとはまったく違うように聞こえたり…。『なんで俺はできないんだ、全然ダメじゃん』と、すごく悔しい瞬間がめちゃめちゃあって。スタッフさんにも色々サポートしていただきながら、時間はちょっとかかってしまったんですけども、トライして、当たって砕けて。砕け散って。1回ぐしゃぐしゃになって。経験したことないっていうのもありますけど、でもそれは通用しない。観てくださる方もたくさんいらっしゃるし、絶対にいいものを届けないといけない責任もあると思うので果たせていたらいいな。すごく難しかったですけど楽しかったです。 右近:僕もまさに当たって砕けろというか、砕けてやり直してっていうことしかやりようがありませんでした。げんげんが言ったように、リップを合わせなきゃいけないのはもちろん秒数が決まっているので、秒数に追われて、画を見る余裕は全然なく、数字を見ちゃうことが多かったです。なので、気持ちを出したり、力を抜いて演じることができない時間がg長く続いてしまいましたが、とにかくスタッフの皆様には根気よく付き合っていただきました。僕がムファサで良かったと、呼んで良かったと思ってもらいたい気持ちがすごく強かったので、どうにかしてやり遂げたい一心でした。 ――演じるのは人ではなく、ライオンってところにも難しさはありましたか。 右近:それもめちゃくちゃありました。いきなり吠えたりもするから…。そうだ、ライオンだった!と(笑)。 松田:吠えるのは難しかったです。意外と息を音にすることは戸惑いました。マイクにバサッて息吹きかけると割れちゃうこともあるし、ちょっと外して…技術面も勉強になりました。 右近:だからこう考えると自分の決め手はきかなくてよかったです(笑)。プレッシャーで耐えられなかったと思います。 ――お互いの演じられる声を聞いた印象とかはいかがでした。 右近;雄々しさ、野性味のような強さ、荒っぽさも感じるし、でも愛くるしさがあり、温もりもあるし、人懐っこさみたいなのもやっぱりある。げんげんの声の魅力とタカの魅力が重なっている状態を部分的に聞くことができたことはムファサをやらせてもらう上ではすごく救いになった。兄弟の支え合いって、ただお互いにサポートし合うだけじゃなくて、影響を与え合うってことが支え合うってことなんだな、とより実感しました。 ――ヴィランであるスカーになった松田さんの声はいかがでしたか。 右近:僕はめちゃくちゃびっくりして。ムファサが怒りよりも落ち込むっていう気持ちがよくわかった。お互いに悪いことしてないからこそ、結構リアルですよね。関係性をすごく感じさせてもらった。綺麗な水色がダークブルーに、冷たい色になった感覚でした。 松田:うれしいです。けんけんの声は温かさと、優しさと、勇敢さと…どこかに抱えている、誰にも言わない悩みみたいな感情もありながらも、周りのみんなを優しく包み、支える、リーダー気質だけど、別に自分からは名乗り出ない1歩引いたカッコよさがある。タカに対してのアプローチの仕方もすごく優しく、その声だけでタカとしても、そして松田自身としても安心感がありました。そこに救われながらも、最初は『あ、けんけんの声だ』と思っていたのがその脳みそがなくなって『そういえば、けんけんの声だった』と思うくらい、うわ~、ゾワ~ってする感じがありました。勉強にもなったし、刺激もいただけて僕もより一層、タカを頑張ろうと思えました。 ――では、収録を終えた時の達成感はすごかったんじゃないでしょうか。 右近:でも、終わったらもう一回最初からやりたいと思ったんです。最初からやりたいし、もっとアニメーションの声優もやってみたいと思いました。 松田:僕も思いました! 右近:歌舞伎をやっていても、踊りを踊っても、舞台や映像の仕事をさせていただいてても、空気や自分の気持ちがじわっと来た瞬間は共通で持てるし、そこを良かったと言ってもらえることが結構ある。今回もちょこっとそういうものも持てた気がします。手応えまでいっているかはわからないですが自分なりにはやりきったと思います。 松田:手応えと不安が結構半々ぐらいではあるんですけど、確実に100パーセント以上の力でトライできた。自信もって自分に“お疲れさまでした”と言えますし、もし他の作品にまた声で携われるタイミングがあったなら、今回の経験を活かしてちゃんとステップアップしたいですね。