選挙続く欧州が恐れる「トランプ旋風」 EUとNATOの行方
米海兵隊がノルウェーに駐留開始
イギリスのタイムズ紙とドイツのビルト紙は、16日にそれぞれの紙面で大統領就任直前のトランプ氏に行ったインタビューの内容を掲載。ニューヨークのトランプタワー内にあるトランプ氏の執務室で行われたインタビューでは、トランプ氏が抱く欧州懐疑論が語られたほか、制裁解除を含むロシアとの関係改善やイランとの核合意破棄が示唆され、NATOにいたっては「時代遅れ」という言葉を用いて欧米間の同盟関係に課題が多く存在すると主張した。これらの発言に対し、ヨーロッパ各国の首脳は一斉に不快感を示したが、安全保障に関してはNATOのストルテンベルグ事務総長がすでにトランプ氏と電話会談を行ったことを明かしており、「アメリカとヨーロッパの同盟関係がこれからも続くことを確信している」と報道陣にコメントしている。 ロシアとの関係改善を急ぎたいとも伝えられるトランプ氏の安全保障における本音が見えるのはこれからで、トランプ政権がこれから外交・軍事の両面で具体的にどのような政策を実際に行うのかは現時点では不明だ。しかし、20日に議会で承認され、新国防長官に就任した海兵隊出身のジェームズ・マティス元アメリカ中央軍司令官は、承認前に行われた議会での公聴会で「ロシアはアメリカにとって深刻な懸念を増大させている」と語り、NATOの重要性を訴えた。また、核合意の破棄を示唆したトランプ氏の発言とは対照的に、アメリカは核合意を順守すべきとの見解を示している。マティス氏の国防長官就任によって、アメリカは軍事面で現実路線を歩む見通しが高まってきたが、ロシアに対する見解が大統領と国防長官で大きく異なる現状が今後どのような展開を見せるのかは不明だ。 実際にトランプ氏が大統領に就任する直前から、NATO加盟国内ではいくつかの注目すべき動きがあった。オバマ政権時にすでに決定されていたものの、16日には海兵隊300名が北欧のノルウェー中部で駐留を開始した。ノルウェーに外国部隊が駐留するのは第二次世界大戦以降では初めてで、NATO加盟国の中で最北端に位置するノルウェーに海兵隊を駐留させることはロシアへのけん制を意味する見方が有力だ。海兵隊のノルウェー駐留開始の1週間前には、米陸軍1個旅団(約4700名)がNATO加盟国のポーランドに到着。2月にはこの旅団の戦車も到着する予定だ。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト