VAIO最上位「R」の風格。14型ノート「VAIO SX14-R」はただの改良版ではない
ビジネス向けに人気の14型ノートPC「VAIO SX14」の上位機種として、新たに「VAIO SX14-R」が追加される。10月31日より受注開始、出荷は11月8日で、公式オンラインストアでの価格は25万9,800円から。「R」が付いてどこがどう変わったのか、無印と比較しながらチェックしていきたい。 【画像】VAIO SX14-R(左)とVAIO SX14(右) ■ 高い質感はそのままに、進化した耐久性と軽さ 新登場となるVAIO SX14-Rは、従来のVAIO SX14を源流にした上位機種ではあるが、製品ラインとしては異なる位置付け。つまりVAIO SX14-RとVAIO SX14は併売されることになる。 製品名に付ける「R」は、クルマ業界であれば「Racing(レース)」、それ以外であれば「Revolution(革命)」などの意味合いを持たせることが多いと思う。実際に今回のVAIO SX14-Rの「R」はRevolutionを意味しているという。 外観デザインはVAIO SX14と同様、高級さを感じさせるもの。特に今回の試用機のボディカラーでもある「ディープエメラルド」は、パールの入った深みのあるグリーンで、差し色となっているゴールドのロゴやオーナメントとの組み合わせが映える。若干自己主張が強めではあるけれど、ビジネスシーンだと使いにくい派手さ、というほどではない。 キーボード面もグリーンで、ここもパームレストからキーボード奥までシンプルながらも質感の高いアルミの1枚板をVAIO SX14から引き継いでいる。タッチパッドの大きさは変わらず、キー配列もCopilotキーや後述する「VAIO オンライン会話設定」キー周りを除き、まったく同じだ。 ただ、キーボードのタイピング感は少し変化している。全体的に静音性が高まっており、VAIO SX14ではわずかにカチャカチャ感の残っていたところも、おとなしい「スコッ」という音のみになった。特にEnterやShiftなどの大きめのキーだと分かりやすい。 外装は特に変化していないように見えるが、実際には素材が大きく変わっている。天板と底面には、新設計の熱可塑性カーボンプレートを採用した。同一重量の場合にマグネシウム合金の約2.9倍の剛性を持つという。ちなみにVAIO SX14の天板はカーボン、底面は樹脂製だった。 これにより、MILスペック(MIL-STD-810H)相当の耐久性能を達成しつつ、最軽量モデルは948gと1kgを切る結果となった。筐体サイズは奥行きがわずかに増えたようだが、持ち運び時の軽快さは高まったと言える。 ■ メモリ64GBと充実のネットワーク装備、取り回しの良さもアップ 中身もあらゆる面で「補強」され、CPUにはCore Ultraシリーズ1を採用した。Core Ultra 7 155HまたはCore Ultra 5 125Uを搭載。最新のシリーズ2ではないものの、強化されたGPUのIntel Arc graphics(Core Ultra 7の場合)と、効率的なAI処理を担うNPUを内蔵する。 メモリを最大64GBまで搭載できるようになった点もポイントだ。最小構成でも16GBで、ミドルクラスに32GB、ハイスペックモデルに64GBというラインナップ。32GBや64GBもあれば、より多くのタスクやメモリ負荷の大きい処理をこなせるうえに、製品としての“寿命”も長くなるだろう。 ストレージは256GB~2TB(NVMe M.2 SSD、PCIe 4.0 x4)の容量を選択可。ディスプレイは最大解像度のモデルがWQXGA(2,560×1,600ドット、アスペクト比16:10、60Hz、タッチ対応)となる。VAIO SX14の最大4K解像度よりも抑えられたが、14型という液晶サイズを考えると、あるべきバランスに落ち着いた感じだろうか。 ネットワーク機能は最新規格のWi-Fi 7に対応し、有線LANポート(1GbE)も標準装備する。WAN搭載モデルもラインナップしており、5G対応と4G LTE対応の2種類から選択可能だ。オフィスでも自宅でも、あるいは外出先でも、高速なネットアクセスを確保できる。物理SIMとeSIMの両対応となっているのは、海外出張の多い人にとってもありがたいだろう。 側面のインターフェイスにも変化が見られる。Thunderbolt 4(DisplayPort Alt Mode、USB PD対応) 2基と、USB 3.2 Gen 1 2基、HDMI出力、有線LAN、ヘッドセット端子という構成はほぼ同じ。ただ、Thunderbolt 4を左右両側面に1つずつ備える形になり、ケーブルの取り回しの自由度が上がった。 VAIO SX14はThunderbolt 4ポートが右側面に集中していたため、充電器や外付けモニターなどとの配置に制約ができてしまうこともあったが、その点が改善されたことになる。 なお、セキュリティは内蔵Webカメラによる顔認証と、電源ボタン一体型の指紋センサーによる指紋認証が利用でき、いずれもWindows Helloに対応する。ビジネスシーンで安心して使えるVAIO SX14の基本機能はそのまま、というわけだ。 ■ 快適なWeb会議とセキュリティ、省電力に貢献するAI機能 機能面ではAI処理が一段と強化された。マイクやスピーカーの音声と、Webカメラの映像について、AIによる特殊な効果を加えられるようになったほか、各種センサーによるセキュリティ強化や省電力化にもつなげている。 まず音声周りについて詳しく説明すると、これまでもVAIOシリーズではAIによるマイク入力やスピーカー出力のノイズキャンセリング機能を実装してきたが、それをさらにパワーアップさせた。内蔵マイクによる音声入力は、正面の2つのマイクに加え、筐体側面に新たに設けた3つ目のマイクも活用することで集音範囲を変えられるようになった。 この集音範囲は、全方向や正面方向など、4パターンから選ぶことができる。たとえば会議室に集まった人たちで1台のPCを使ってWeb会議に参加するときは全方向を、オフィスの自席で1人でWeb会議に参加するときは正面方向を、といったように、シチュエーションに合わせて適切なモードを設定できる。 また、声を張らなくても相手に声が届きやすくなる「小声モード」もあり、周囲に声が漏れると恥ずかしいけれどヘッドセットが手元にない、というようなときに便利だ。 カメラ映像についても、背景ぼかしや逆光補正、美肌化などの特殊効果は以前から利用できたが、Windows標準の「Windows スタジオ エフェクト」が利用可能になったことで、それを補完するような機能に生まれ変わった。 Windows スタジオ エフェクトにもある背景ぼかしは廃止されたが、顔優先AE、逆光補正、美肌効果などは引き続き搭載。さらに「プライバシーフレーミング」というカメラ映像の画角をソフトウェア的に調整する機能が加わったのがおもしろい点だ。 背後の部屋の様子はバーチャル背景ですっかり隠してしまうこともできる。が、プライバシーフレーミングを使うと、あえて背景は残しつつ、仮想的に自分の顔をズームアップ状態したり、映像左右の余計な情報を相手に見せないようにしたりできる。 これらを適用した上でWindows スタジオ エフェクトの背景ぼかし、被写体を追いかける自動フレーミング、視線をカメラに向けさせるアイ コンタクトなどの効果を重ねがけできる。これら二重の機能で、Web会議に万全の状態で臨めるようになるというわけ。 ちなみに、Windows スタジオ エフェクトはCore UltraのNPUを活用してCPUやGPUの負担を低減できるが、VAIO独自機能については今のところNPUにオフロードできるようにはなっていない。とはいえ、VAIO独自機能のCPU/GPUへの影響は1~2%あるかないかといったところ。最小限のリソース消費で見栄えの良い映像にし、聞き取りやすい音声でコミュニケーションできるようになっている。 そして、PCの前に座っているユーザーを認識することでセキュリティの向上や省電力化を図れる従来のセンサー機能についても、VAIO SX14-Rでは「AI ビジョンセンサー」となって進化した。 カメラをセンサーとして活用することで、ユーザーの在席・離席の状態を認識し、自動で画面をロックしたり、ログオンしたりする機能は従来通り。それに加えて、画面を注視していないときに輝度を下げて節電する「ノールック節電」や、背後から画面を覗き見られているときに注意を促す「のぞき見アラート」といったスマートな制御も行なわれるようになった。 これら音声やカメラ、センサーに関わる独自機能は、専用ユーティリティの「VAIO オンライン会話設定」などから利用でき、ファンクションキー(F12)右隣のキーでその設定画面を一発で呼び出すこともできる。Web会議が多かったり、セキュリティリスクを気にしがちだったりする今どきのワークスタイルにマッチした機能に進化しているのだ。 ■ Core Ultraの実力は?AI性能もチェック それでは、VAIO SX14とVAIO SX14-Rの性能差がどれだけあるのか、ベンチマークソフトで確かめてみよう。 「Cinebench 2024」の結果を見ると、動作周波数が下がった影響でSingle Coreは不得手なようだが、コア数が増えたことでMulti Coreは大きく伸びた。消費電力は基本的に同等なので、ワットパフォーマンスは向上しているとみて良いだろう。 「PCMark 10」は軒並み大幅にスコアアップ。とりわけ写真編集のような処理が得意と思われ、Adobe PhotoshopとLightroom Classicを実際に動作させてテストする「Procyon Photo Editing」も約30%向上した。仕事かプライベートかを問わず画像を扱うのが当たり前になっている中で、さらなるマルチメディア性能の積み上げは強みとなるだろう。 それとともに3D描画性能やゲーミング性能も進化を見せている。「3DMark」はどのテスト項目も2~4倍のスコアを叩き出し、「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」は今や比較的軽量な部類のテストではあるが、それでも3割弱の伸び率は立派だ。 AI性能も検証してみた。画像認識と画像生成の能力を測る「Procyon AI Computer Vision」および「Procyon AI Image Generation」は、CPU処理については同等だったものの、GPU処理だと2倍のパフォーマンスでVAIO SX14を圧倒した。 NPU処理はGPUにわずかにおよばなかったものの、VAIO SX14のGPU並の性能は達成している。従来GPUで処理していたものをNPUがそのまま肩代わりできることになるとも言えるわけで、AI処理と3DCG描画を同時に実行するような高負荷な処理も効率よく行なえるに違いない。 最後、PCMark 10のバッテリテスト「Modern Office」では16時間超の駆動時間となった。VAIO SX14の11時間半でも丸1日持つレベルだったが、さらに3割増しとなることで2日目に突入しても問題なさそう。省電力なCore Ultraによるスタミナ向上は「R」ならではのアドバンテージだ。 ■ これからのAI時代に備えておくべきプレミアムなVAIO Core Ultraを搭載し、メモリを最大64GBまで積むことも可能で、性能だけでなくデザイン性、耐久性にも磨きがかかったVAIO SX14-R。Web会議をさらに快適・スムーズにする新機能「AI ビジョンセンサー」も追加され、見た目も中身も上位機種たる風格が感じられる仕上がりになっている。 このタイミングであれば、できるならCore Ultraシリーズ2を搭載していてほしかった、というのが正直な気持ちではある。が、NPUが有効なアプリやローカルAIの重要性が今後増していったときに、そこにすぐさま対応できる環境にあるかどうか、というのが今は一番大切。プレミアムなスペックで「改良」あるいは「補強」され、ワンランク上の作業環境を手に入れられるVAIO SX14-Rなら、いち早くそこに追従していけるのだ。
PC Watch,日沼 諭史