ひきこもりだって物価高の影響を受けている! NHK『ひきこもりラジオ』に届く当事者の実像
今や全国に100万人以上いるとされる「ひきこもり」の人々。報道などでセンセーショナルに取り上げられることも多い当事者たちの実態について、その生の声をラジオで届けている貴重な番組が、NHKラジオ第1の『みんなでひきこもりラジオ』だ。 【画像】石井直人さんと栗原望さん 2020年5月に特別番組として不定期の放送が始まり、現在は月イチのレギュラー放送のほか、収録の模様をテレビでそのまま放映する『テレビでひきこもりラジオ』も好評を博するなど、じわじわと取り組みの輪を広げている。 報道でもドキュメンタリーでもない、この「ひきこもりの、ひきこもりによる、ひきこもりのための番組」(番組紹介文より)について、番組プロデューサーの石井直人さん、MCを担当するNHKアナウンサーの栗原望さんにインタビューを行った全3回にわたる記事の3本目では、ひきこもりの人々の意外な実像や、栗原さんの放送時の必需品などを聞いた。 ■「平成ずっとひきこもっていた」 ――これまで放送していて膨大な数のメッセージがひきこもり当事者の方々から寄せられたと思います。その中で印象的だったものは? 栗原 たくさんありますね。例えば、「30年ひきこもっています」という方がいて。それは電話でお話したんですよ。その方から10カ月後くらいにまた連絡をいただいて。すると、番組で電話したら気分が良くなって、散歩に行きました、と。とりあえずの目的地として、近所の公民館まで行ってみたら、子ども食堂をやっていて、近所の人たちと食事をするようになりました。それが楽しくて毎日通うようになったら、運営の方から声をかけられて、今ではそこで働くことになりましたって。これはすごく驚きました。 石井 だって、「平成の30年間ひきこもっていました」という方だったんですよ。その事実から衝撃的で。 栗原 僕も「平成ずっとですか!」と言いましたからね。声から悲壮感は感じられなかったんですけど、あまりにも重すぎる話で。 石井 それだけにほんとうれしかったですね。 栗原 これは過去にひきこもりの取材班 が聞いた話なんですが、「コンビニに行くまで1000の段階がある」と言っていた方がいて。「外に来ていく服がない」とか「誰かに会ったらどうしよう」とか、そういう細かい不安がコンビニに行くだけで1000はあって、それをクリアしないと行けないんだ、ということなんです。 でも、ラジオを聞いて、メッセージを送る、というだけで、おそらく、そのステップのうちの何段階かはさりげなくクリアしているんじゃないかと思うんですね。就職活動するときにカムアウトするべきか迷っているという電話をくれた人が、勇気を出して伝えたら採用してくれましたと報告してくれたり。そうやって行動のきっかけに僕らの番組がなっているのだとすれば、それはなんだかいいことじゃないかと思います。 石井 もちろん、私たちが「うれしい」と感じるのは、決して社会参加されたときだけではなくて。一人ひとりの当事者に「自分はこうなりたい」という思いがあって、どんなかたちでも、そこになんとかたどり着こうとされているのであれば、それがすごくうれしいんです。 小さなことですけど、犬のエサを買いに行くかどうかって話になって、番組中に、「みなさんに背中を押されて買いに行けました」というメッセージが届いたときも、すごくうれしかったんですよ。反対に「まったく変われなかったんです」という人がいても、リスナーのみんなが「そうだよね」と言ってくれるから、番組が安心してメッセージを送れる場になっているのだと思います。 ――ありとあらゆるパターンのひきこもりの声を伝えているから、リスナーも「自分だけが特殊じゃないんだ」と思えるんでしょうね。 栗原 だって100万人以上ですからね。世帯で考えると、それこそ数十世帯に一人はひきこもりがいらっしゃるわけで、全然特殊なことじゃないんです。住宅街を歩いていて、あそこにもここにもいるんだろうなと思います。番組をやっていると、そのリアリティはすごく感じますよ。