親と子の遺伝子はけっこう違う!…生物学者が明かす、子どもを「生き残っていけるヒト」に育てる「意外な方法」
子どもが将来安泰であるように育てたい。……子育てにおける最大のテーマといえるでしょう。 【画像】サケが「ピンピンコロリ」で死ぬ理由 生物学者の小林武彦さんは、子どもを「生き残っていけるヒト」に育てるためには生物学的に「シニア」の存在が重要だと言います。 (本記事は小林武彦『なぜヒトだけが老いるのか』を抜粋、編集したものです)
「ガラガラポン」の仕組みを持つ生き物が生き残る!
「シニア」は、いい教育者でもあります。 教育の目的は、人を育てること。文化や知識・技術を継承し、社会を維持するためのルールを教えます。 これに加えて生物学的には、「多様性の実現」という目的もあります。機械のように同じような人間を作っても、変動する環境や社会情勢の中で、将来まで生き残っていくことは難しいのです。いくら有性生殖で遺伝的な多様性を確保しても、画一的な価値観や生き方を押しつけたら、意味がありません。 歴史を見ると、その中心的な人物はそれこそ大河ドラマが作れるくらい個性的な人が多いです。常識を打ち破れる型破りな人が時代を変え、時として世の中を飛躍的に進歩させるのです。 人を形成するものは遺伝と環境です。遺伝は偶然決まるので、どうにもなりません。「本当は、私は鳥になりたかった」と言ってもしょうがないのです。諦めましょう。別の自分になりたい人は第7章でお話しする「メタバース(仮想空間)」をご活用ください。ただ鳥のどこに憧れているのかがわかれば、そのことを「ヒトとして」実現することは可能です。鳥のように空を飛びたいのであれば、パイロットになる道もあるのかもしれません。 もう少し細かい話をしますと、遺伝には両親の遺伝情報がランダムに選ばれミックスされて子に伝わる仕組みがあるので、似ているところもありますが、必ず親とは違います。ヒトの場合、46本ある染色体の23本がランダムに選ばれて精子や卵ができます。その種類は、2の23乗で約800万通りとなります。 それがまた同じだけの種類がある卵や精子とランダムに受精するので、70兆種類の受精卵ができます。実はさらに精子や卵を作るときに「組換え」と言って染色体自身をつなぎかえて新しい組み合わせを作る仕組みもあり、これでもかと言わんばかりに親と違う遺伝子の組み合わせ、つまり多様な子孫を作る仕組みがあるのです。生物学的に言うと、こういう「ガラガラポン」をする仕組みを持つ生き物が、生き残れてきたのです。 女性だったり男性だったりという身体的な遺伝は「運任せ」で仕方がないとしても、「環境」は変えることができます。「環境」の中でも人の形成に最も影響を与えるのは、言わずもがな「教育」です。教育は家庭、学校、地域が担っていますが、中でも幼少の頃の大半を過ごす家庭の影響力が大きいです。 ただ、多様性、つまり個性を育てる教育は、親にはなかなか難しそうです。個性を育てるためにはまずその子の特徴を掴まないといけないのですが、親はどうしても保護的で保守的になりがちで、人と違うこと、個性的になることは、どちらかというと好まない傾向があるようです。つまり没個性的であることが社会でうまくやっていくための「こつ」でもあると考えている親が多いようです。 そのため、他の子供と比べたり、成績の順位など、同じ基準での比較を重視します。冒険やチャレンジは奨励せずに「普通」にやってほしいと考えがちなのが親、特に日本人の親(? )の一般的な特徴でしょうか。すみません、これは私見です。 そこで「シニア」の登場です。彼ら彼女らは親子より関係が薄い分、客観的にその子(人)の個性を発見できます。多少のリスクがあっても得るものがあると判断した場合には、新しいことにチャレンジさせることもできます。つまり、親にはできない「個性を育てる教育」に適した人材なのです。 この場合のシニアの候補は、学校の先生であったり、祖父母であったり、スポーツ少年団のコーチ、近所(地域)の見識のある大人、親戚などなどです。 あるいは直接会わなくても、有名人であったり、スポーツ選手やユーチューバー、研究者であったり、に憧れて「そうなりたい」と思うのは、教育を受ける上での大きな動機となります。若いスポーツ選手であっても、子供にとっては十分シニアです。 教育は生きていく上でのスキルのみならず、希望と勇気とを与える大切な行為です。その中でシニアの役割は、最大級に重要です。 * ベストセラー『生物はなぜ死ぬのか』の著者・小林武彦氏の待望の最新作『なぜヒトだけが老いるのか』は、ヒトだけが獲得した「長い老後」の重要な意味を生物学で捉え、「老い」の常識を覆します!
小林 武彦(理学博士)