勢いだけではなかった「史上最大の下剋上」 なぜDeNAはセ3位から日本一になれたのか? 関係者が舌を巻く緻密戦略【独占】
「ちょっと塁上を賑わしても、0点で帰ってくればいい」
無論、一時の勢いや一体感だけで日本一を掴めるほど、プロ野球は甘くない。 前出の鈴木コーチは「他球団はわかりませんが、うちは細かい色々なデータとかをしっかり出してますね。やるのは選手ですけど、そういうバックアップもしっかりできてると思いますよ」と首脳陣も重要視するアナリストの存在をフォーカスした。 綿密なデータ収集の影響を受けたのは打撃陣だけではない。相川亮二ディフェンスチーフ兼バッテリーコーチも「アナリストさんとバッテリーの感性がいい結果につながったんじゃないですかね」と語る。 「“イタチごっこ”じゃないですけれども、やった、やられたというなかで失点をしない。ちょっと塁上を賑わしても、0点で帰ってくればいいわけですからね」 相手チームを丸裸にし、肉を切らせながら骨を断った。実際、CSファイナルステージでは見逃し三振を「20」も奪取。日本シリーズでもピンチで6球連続チェンジアップを選択するなど、バッテリーは相手の想像の上をいく配球で相手打線を翻弄した。 「より追求した」(相川コーチ談)というバッテリーミーティングではアナリストから提供されるデータを軸に緻密な作戦を練った。 「ゲーム中でもこいつはこっちの方がいいんじゃないかとか、ここはインコースはやめといた方がいいぞとかっていう話は当然しました。最低限でこうした方がいいんじゃないかっていう提案は、コーチとして当たり前のことだと思うので」 その上で相川コーチは「決めるのはやっぱり本人たちなんで。最後の部分はやっぱりバッテリーの感性」とプレーヤーを称える。 「ミーティングでインコース行けと言っても、攻め方は何種類もあるじゃないですか。例えば3球のうち2球行けって言っても、初球なのか中間で行くのか、最後に行くのか。3球の中でもその人たちによって違いますし。ピッチャーもそうですよね。そこに意思決定するのはピッチャーなんで。バッテリーの意思決定がうまく反映されたからこその結果だと思います」 1勝の重みが増すポストシーズンの戦いは、三浦監督が就任時に掲げていた「選手、コーチ、スタッフ。そしてファン」が一丸となって戦う“横浜一心”の志が実を結んだ結果に他ならない。その精神的な要素に加え、データ分析に重きを置き、コーチにアナリスト出身者を登用するなど、他球団にはないユニークな試みが花を開いたことも重要なファクターだったと言えるだろう。 ようやく『勝ちきれない』という足枷を解いた三浦ベイスターズ。それでも指揮官は、「あれがゴールではないですし。143試合戦った中で今年は3位だったわけですから、誰も満足してません」と強調する。 「そこ(リーグ優勝)が来季の目標であることが大前提ですから、継続して進化し続けていかないといけないですね」 下剋上の先へ。目指すものは、もうひとつしかない。 [取材・文/萩原孝弘]