「一回いじめたら、止められない」「何か暴走してしまう」…意外と知らない「いじめの構造」
学校とはどのような場所なのか、いじめはなぜ蔓延してしまうのか。学校や社会からいまだ苦しみが消えない理由とは。 【写真】年収300万円未満家庭、3人に1人が「体験ゼロ」の衝撃! いじめ研究の第一人者によるロングセラー『いじめの構造』で平易に分析される、学校でのいじめ問題の本質――。
【事例・何かそれ、うつっちゃうんです】
「ひとりやったらできへんし、友だちがいっぱいおったりしたら、全然こわいもんないから。何かこころもち気が強くなるっていうか、人数が多いってことは、安心する、みたいなんで。一回いじめたら、止められないっていうか。何か暴走してしまうっていうかな」 「友だちに『あのひと嫌い』って言われると、何かそれ、うつっちゃうんですよ」 (NHKスペシャル「いじめ」いじめの加害者である生徒のインタビューより、一九九五年一〇月一日放映) この女子中学生は、「友だち」と群れていると、カタツムリが日中に徘徊し、ミツバチが水に飛び込み、ヨコエビが水面で水草にまとわりつくように暴走して、いじめが止まらなくなる。友だちに「あのひと嫌い」と言われると、「何かそれ」がうつってしまう。生徒たちは、自分たちが群れて付和雷同することから生じた、心理‐社会的な秩序の「乗り物」になって生きる。 このように個をとびこえて、内側から行動様式が変化させられてしまうことを、図2のようにあらわすことができる。カタツムリの場合、吸虫の情報が個をとびこえて内部にはいり、内的モードが変化したのである。 それと同様に、女子中学生の場合、「友だち」の群れの場の情報が個をとびこえて内部にはいり、内的モードが変化した。「何かそれ、うつっちゃうんですよ」という発言は、群れに「寄生され」て内的モードが変化させられる曖昧な感覚をあらわしている。 学校の集団生活によって生徒にされた人たちは、(1)自分たちが群れて付和雷同することによってできあがる、集合的な場の情報(場の空気! )によって、内的モードが別のタイプに切り替わる。と同時に、(2)その内的モードが切り替わった人々のコミュニケーションの連鎖が、次の時点の集合的な場のかたちを導く。(3)こうして成立した場の情報が、さらに次の時点の生徒たちの内的モードを変換する。 この繰り返しから、図3のような、心理と社会が形成を誘導しあうループが生じる(図3は単純化して描かれているが、実際は螺旋状のループである)。これは、個を内部から変形しつつ、個の内側から個を超えて、社会の中で自己組織化していく作動系(システム)である。
内藤 朝雄(明治大学准教授)